数学は嫌いです!
苦手な人のためのお気楽数学

石川英輔著
講談社文庫

高等数学の概念を実生活との関連で語る
わかりやすい部分もあるが
常用対数については疑問

 高等数学をわかりやすく解説するという目的の対話形式の小説。著者は『大江戸』シリーズの石川英輔。

 物語(というほどのものではないが)は、ある小企業の男性社員マナブと女性社員カズコの会話で構成されており、カズコがマナブをおちょくりながらも、数学の概念について教えていくという流れで話が進む。第1章がプロローグ、第2章から第6章までで、方程式と関数、微分、積分、常用対数、三角関数についての解説、第7章がエピローグという7章構成である。どの項も、具体的な例から始めて、それが数学的概念とどのように結びつくか語っており、実生活と数学概念との関連がわかりやすい。

 微分、積分は、確かにここで紹介されているような考え方も成り立つが、概念的な説明がないため、わかったようでわからないという感じで物足りなさを感じた他、常用対数の説明がきわめてわかりにくかったというのが率直な感想。実は、本書で展開される常用対数の説明は、著者が自社の新人研修で使っていたものらしく、しかもそれが効果を上げていたらしいので、言ってみれば本書の目玉のようだが、僕にはさっぱりわからなかった。「1増えれば10倍。0.3増えれば2倍。」という呪文を憶えて活用しようというコンセプトだが、この言葉の意味がしっくり来ない上、読んでいてどこに連れて行かれるのかもわからないという有様で、僕にはこの説明がまったく合わなかった。その後解説が出て log10 = 1.0と log2 = 0.3 の意味だということが明かされるが、それでも何だか自分の中で辻褄が合わない。少なくとも、このあたりは自分なりの理解の仕方の方がわかりやすいと思った。

 方程式や三角関数については、高校生の数学入門の第一歩としては良いかも知れないという印象だが、まったくこういった概念を知らない人がこれを読んでも、結局わかったような気になって終わってしまうんじゃないかという気もする。アプローチは興味深く面白いし、本書と似たような試みはもっと増えてほしいとは思うが、本書については、必ずしもその意図が100%成功しているとは思えない。著者の説明が単に、僕に合わなかっただけかも知れないが。

 ただ第7章のエピローグが、石川英輔らしく、結構な教育批判、文明批判になっており、きわめて面白かったことを付記しておく。この部分は、小説形式ではなく、素の著者が登場して語るんだが、『大江戸事情』シリーズを髣髴させる、大いなる批判精神が現れていて小気味良い。しかも吉田光由の『塵劫記』(江戸時代の数学書)まで紹介されていて、さすが石川英輔と思わせるものがある。やはり石川英輔は批評に限る、という感想に落ち着く。

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