大江戸リサイクル事情
石川英輔著
講談社文庫
江戸文化の紹介本でありながら
現代文明批判の本でもある
大江戸ブームの火付け役である石川英輔の著書。『大江戸えねるぎー事情』、『大江戸テクノロジー事情』に続く『大江戸事情』シリーズ第3作で、なんとこちらも元々は、原子力文化財団のPR誌『原子力文化』に連載したエッセイだという。
本書では、江戸時代の日本社会が、植物を利用した完全リサイクル社会であり(これを著者は「植物国家」と呼ぶ)、前年、せいぜい数年前までの太陽エネルギーのみを利用して生活を成り立たせていたということをテーマにして、江戸のリサイクル・システムの実態を紹介していく。
紹介されるのは、動力(水車)、照明(行灯、蝋燭、提灯)、素材としての竹、着物、肥料としての人糞、灰の万能性、車輪、森林などで、江戸社会が人力(そして一部動物の力)と太陽エネルギーだけで成り立っていたことを示していく。同時に現代の、一方通行の大量消費型の消費社会について問いかけをしていく。
スイッチ一つで何でも動く現代のシステムは確かに便利ではあるが、同時に数億年かけて蓄えてきた化石燃料を後先考えずふんだんに使い、それによる影響に目をつぶっている。言ってみれば借金をして優雅に暮らしている人みたいなもので、あるものだけで堅実に暮らしている人から見ると、一見うらやましくもあるが、その後のことを考えれば、どちらが優れた方法か明らかであるというのが著者の主張。決して現代文明を否定することはできないが、今のままの生活がそのまま続けられるとは思えないという至極ごもっともな意見である。
今だと、こういう考え方は一般的になっているが、本書の元となったエッセイが発表されたのが1992年であることを考えると、その先見の明に驚く。しかも、過去実在した江戸文化を通じて、そういった問題に思いを馳せるという点で、単なる理想論で終わらない説得力がある。明治以降の日本社会のように(過剰に理想化した)外国にばかり見本を求めないで、先祖に目を向けたらどうだという主張は抜群の説得力を持つ。そういう点では、江戸文化の紹介本というよりも、現代文明批判の本と考えることもできる。良書である。