なぜ分数の割り算はひっくり返すのか?
板橋悟著
主婦の友社
算数・数学の根本的な疑問に答えようとしているが
「これは」という答えは、残念ながらほぼ無い
小・中学生が算数や数学を勉強するときに抱きそうな素朴な疑問を中心に、数学的思考の重要さを説く本。
目次を見てみると、タイトルで使われている「なぜ分数の割り算は、ひっくり返すのか?」(第1章)や「なぜマイナス×マイナスは、答えがプラスになるのか」(第2章)、「因数分解は、大人になって何の役に立つのか!?(第4章)」などという項目があって目を引く。当然のことながら、このタイトルの命題に基づいて論が展開されるのだが、こちら側としては、数々の素朴な疑問への明快な回答を期待して読み進めることになる。
たとえば「なぜ分数の割り算はひっくり返すのか」の理由は、中学レベルの代数で考えれば比較的簡単に説明できるんだが、小学生から質問されたりするとなかなか説明できない(実際に質問されたことはこれまでないが)。これについては、非常に適確な説明があって参考になった(それぞれの項に同じ数をかけて、割る数字を1にするという説明。たとえば2/3÷5/7であれば、2/3と5/7の両方の項に同じ数をかけても結果が同じであるため、7/5をかける。すると
(2/3 × 7/5) ÷ (5/7 × 7/5) = (2/3 × 7/5) ÷ 1 = 2/3 × 7/5
になるというもの)。
だがこれ以外のケースについては、残念ながら納得できるような回答があまりなかった。「因数分解は、大人になって何の役に立つのか!?」に至っては、一般的な問題解決の技法が因数分解的だからこういう考え方を身につけておけば将来役に立つなどという結論を出していて、正直期待外れも甚だしい。他の項も同様で、僕にとってはまったくもって「羊頭狗肉」本であった。
全体的に中学の数学の教師が生徒を無理矢理説得しようとして展開するような手前味噌的な講釈が多くて、あまり新鮮味がないし感心もしなかった。読みやすいし(1時間くらいで読み終えられる)著者の真摯さは伝わってくるが、甚だしくもの足りない本であった。
追記:
なお、上記の分数の割り算の説明は説明のための説明のようなもので、分数の割り算の根本的な概念を説明しているとは言えない。『数学の学び方・教え方』には本質的な説明があるので、分数の割り算についての本質を知りたければこちらの方が良い。ただし、こちらはこちらで、小学生に説明するには少し難解過ぎる気がする。