古文の読解
小西甚一著
ちくま学芸文庫
「上から」目線が少々不快
小西甚一センセイの入試参考書が文庫化されたのは2014年で、入試参考書が文庫化されるのも驚きだったが、懐かしさもあって即購入した。僕など大学入試のときは小西センセイの著書(『古文研究法』)で勉強したクチで、他の参考書と一線を画す硬派な内容に驚嘆しながらも感心したのを憶えている。この『古文研究法』だが、僕の受験当時すでに初版から30年近く経っていて外観からして古さが漂っていたが、本屋でちょっと立ち読みしただけで、それがただものではないことがわかったのだった。ちなみにこの本、2010年ぐらいまで売られていたようである(その後数年間、中古市場以外で目にすることはなくなった)。初版から60年間近く売られていたことになるが、長寿だったというのも合点が行く。本物志向の受験生には是非こういう本を選んでいただきたいものである。
先ほども言ったように、『古文研究法』はしばらく入手困難だったため、小西甚一の著書で入手できるのはこの本くらいのものであった(2014年当時。その後、同じシリーズで『古文研究法』が文庫版として出版された)。
さて、実際に今回、この『古文の読解』を読んでみると、内容自体は『古文研究法』に近いが、語り口がものすごく「上から」目線で、エラそうな高校(もしくは予備校や大学)のセンセイが生徒に偉そうに語っているような雰囲気がプンプンと漂う。この本、本書の「解説」によると『古文研究法』の7年後(1962年)に出版されたらしいので、こういう語り口は著者の意図的なものなんだろうが、ちょっとしつこくてうるさい。偉そうな態度をとる教師なんぞ不快な存在以外の何ものでもない。
それに本書で要求されているレベルが高すぎるのも気になるところ。正直こんなのが理解できれば国文学者になれるぞというものが多い。実は本書で著者は、受験生の多くは国文学を専攻するわけではないので必要以上にコミットすることはない、要は入試で必要なレベルで良い、みたいなことを書いているにもかかわらず、どうも本書で要求されているレベルはそうではないような印象を受ける。他にも似たような矛盾はあちこちに感じる。そういう点で、内容についてはそれほどひどいものではないが(なんせ『古文研究法』と重なる部分も多いし)、本として、あるいは参考書としてはどうにも食えないものになってしまっている。今回この文庫本を隅から隅まで読んだが、満足感はあまりなく、むしろ不快感の方が大きかった。
参考書の文庫化といえば『漢文法基礎』も講談社学術文庫に入っていた。こういう参考書の文庫化というのは、「かつて受験生だったが現在ある程度出世して金がある世代」をターゲットにしてのことだと思うんだが、『漢文法基礎』についても、目玉だった「セクシー漢文問題」の部分をカットしているなど、どうもこの文庫本の製作者の側に十分な理解があると思えない部分が見受けられる。それは本書『古文の読解』が(『古文研究法』ではなく)、文庫版の対象として選ばれたこととも共通する。上司から命令されて仕方なしにやった仕事なのか知らんが、なんとなく「画竜点睛」みたいな印象を受ける。
この『古文の読解』については、今まで書いてきたように内容には非常に物足りなさを感じているが、唯一良かったのが、先ほども少し言及した「解説」である。小西甚一の経歴はもちろん、本書がどういういきさつで出されたかや、改版時にどういう点が変更されたかまで細かく記述されている。ちなみにこの「解説」を書いているのは武藤康史って人。小西甚一が旺文社の『大学受験ラジオ講座』の講師をしていたなんて、今の今まで知らなかった……。