なぜあの人はあやまちを認めないのか

キャロル・タヴリス、エリオット・アロンソン著
戸根由紀恵訳
河出書房新社

過ちを過ちとして認識することの重要性

 認知的不協和について実例を交えながら解説し、その結果派生する自己正当化の弊害について力説する本。

 なんのことだかよく分からないと思うので実例を。

 図書館で本を借りたが、帰りに大雨に遭い、本がびしょ濡れになったあげく、カバーがやぶれてしまった。図書館の本はみんなの物だから大切に使わなければならないと普段から思っている自分にとって、本を破ったことは自分の価値観と矛盾する事実である。これが「認知的不協和」。このような場合、突然の雨にあったんだからしようがない、破れたのは事故なんだと思い込んで、自分の正当性を守ろうとする。これが「自己正当化」である。

 この例などは確かに不可抗力とも言えるが、こういった「認知的不協和→自己正当化」という流れはさまざまな場面で現れてくるもので、大きな弊害を生むことも少なくない……というのが本書の言い分である。

 こういった自己正当化を経ることで自分の中に安心感が生まれるなどの利点もあるが、多くの場合、知らず知らずのうちに自分にとって不利益を生み出しているという。たとえ自己正当化をすぐに解消できないとしても、自己正当化しているという事実を認識することが物事を良い方向に進める助けになるのだというのが本書の主張である。

 本書では、全編にわたって自己正当化による弊害を紹介する。間違った買物をして、それを自己正当化したために余計に出費をするケース。自己正当化が結果的に収賄につながったケース。自己正当化が冤罪につながるケース。自己正当化によって派生する結婚相手に対する不満。自己正当化が報復合戦に発展するケースなどなど。こうして見てみると、ありとあらゆる事象に自己正当化がつきまとっている。

 中でも自己正当化が過去の記憶までねじ曲げてしまうという事実には驚く。本書では、宇宙人に誘拐されたことがあると主張する人々を取り上げている。こういう思い込みの最初の引き金になるのがいわゆる金縛りで、意識がはっきりしながら身体が思うように動かない現象である。非常に多くの人が経験し、そうして多くの場合非常な恐怖心が伴うという。この現象を自分の中で解消するため、「宇宙人に誘拐された」という偽の記憶を作り出すことで解消するらしい。原因から結果までの道のりがあまりに飛躍しているためにわかに理解しがたいのだが、本書にはそのあたりについてもある程度納得できる説明がある。同じように、経歴上まったく関連性のある事実がないにもかかわらず、ホロコーストの被害者だと信じる人(自分の「経験」を書いてベストセラー作家になったらしい)なども紹介されており、それが不協和から自己正当化の結果生じているというのである。

 また、30年ほど前にアメリカで問題になった「心理療法」についての記述もある。つまり、現在の精神的問題がすべて幼少期の性的虐待が原因であるとするカウンセリング技法で、当時さまざまな問題をもたらし社会問題にまでなっていた。これについても「不協和→自己正当化」の観点から解読を試みる。

 とにかく内容が非常に多岐に渡り、さまざまな問題について触れているので、読んでいて飽きることがない。最終的な結論として、自己正当化をやめて自分の非を認めることが重要であり、それが(本人の思い込みに反して)他人からの賞賛を受けることにつながるのだと力説している。読んだ後、心地良さが残る快作である。

医学、生物学
本の紹介『「金縛り」の謎を解く』
-マンガ-
本の紹介『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』
-社会-
本の紹介『抑圧のアルゴリズム』