「金縛り」の謎を解く
夢魔・幽体離脱・宇宙人による誘拐
福田一彦著
PHPサイエンス・ワールド新書
「金縛り」限定の解説書
タイトル通り「金縛り」のカラクリについて解き明かす本。著者は心理学の研究者であり、内容はきわめてまっとうで、奇を衒ったような部分はない。
著者の主張によると、寝ているときに遭遇することがある「金縛り」の現象は、「入眠時レム睡眠」によって起こるという。「入眠時レム睡眠」というのは、本来であれば眠ってから数十分経って始まるレム睡眠が、眠った途端に起こる現象である。人間は一晩に数回レム睡眠の状態に入るが、その間身体の随意機能と知覚機能が停止する(脳は活発に活動する)。つまり身体が金縛りの状態になっているわけだ。通常の場合、レム睡眠時には意識がないためそれについて知覚することがないんだが、「入眠時レム睡眠」が起こると、意識がある状態で突然レム睡眠に入ってしまうため、身体が動かない金縛り状態を経験することになる。しかも一般的にレム睡眠時には脳内の扁桃体(恐怖などを司る部位)付近が活発に活動するため、レム睡眠に特有の異常な恐怖感も感じてしまう。またこのときに幻覚を見ることも多く(「入眠時幻覚」)、そういったことが総合されて、いわゆる「金縛り」という怪奇現象が生み出されるという結論を出している。
この「入眠時レム睡眠」に似たものに、ナルコレプシーという病気がある。ナルコレプシーというのは、昼間の活動時突然眠りに入ってしまうという病気で、作家の阿佐田哲也(色川武大)が患っていたものである。もちろんナルコレプシーは昼間の活動中に突然レム睡眠に入るという点で「入眠時レム睡眠」とは異なるが、両者を対比することで「入眠時レム睡眠」についても理解しやすくなる。
この本では、どのような状況で、この「入眠時レム睡眠」を経験しやすいのかということまで書いている。なんでも、夕方以降、通常の睡眠に入る前に短い仮眠をとると、本格的な睡眠に入るときにいきなりレム睡眠から入ることが多くなるらしく、そういうときに「金縛り」を経験しやすいんだという。興味がある方はやってみると良い。ただし「金縛り」自体に異常な恐怖心が伴うものであるため著者自身は勧めていない。
またさらに、「金縛り」について、それが宇宙人の仕業だとか心霊現象だとか解釈してしまう傾向についても説明がある。要するに認知的不協和を自己正当化することにより記憶を書き換えようとする機能がこれだというのだ。このあたりは『なぜあの人はあやまちを認めないのか』で書かれていたことと共通する。また、「金縛り」の仕組みについても『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?』や『脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみ』などの内容とかぶっていて、こういう本を読んでいる人にとっては、違和感がない……というかあまり目新しさもない。ただ、こうやって「金縛り」という一つのテーマに絞って、わかりやすく記述したことは十分評価に値するんじゃないかと思う。「金縛り」に関する過去の統計データに対する批判など、不要だと思われる事項も多々あったが、それなりによくまとまった本で、「金縛り」に悩まされたことのある人には格好のガイドになっているんじゃないだろうか。