脳は眠らない
夢を生みだす脳のしくみ

アンドレア・ロック著、伊藤和子訳
ランダムハウス講談社

夢と睡眠はここまで解明された

 夢についての研究と言えば、フロイトの『精神分析学入門』が有名であるが、かの書が発刊されてからすでに100年以上経ち、フロイトの夢の解釈については数多くの批判も出ている。もちろん、条件付きで支持する声もある。だが、フロイト以降、脳をはじめとする生物学的研究も進んで、しかもMRIやCTなどのさまざまな計測機器が登場していることもあり、夢(ひいては脳)の研究は格段に進歩してきた。この本では、近年に至るまでの夢の研究とそれに対応する脳の研究をほぼ時系列で紹介し、夢の意味や性質が現在どの程度解明されているかを紹介する。

 本書では、夢の研究を時系列で追いながら、最終的に現時点での決定版(と考えられること)まで到達している。それによると、夢を見ているとき(多くはレム睡眠期)は、「その日、またはその数日前のイベント(困難やストレス源)を、過去の経験や記憶と結びつけ、経験として統合するための作業」を行っているのであり、その間に残像のような形で見えるのが夢であるという。その際に、外部の感覚が遮断され、正常な判断を司る脳の部位が停止しているため、荒唐無稽なストーリーが頭の中で展開されるのだという結論を導き出している。この結論は、ここに至るまでのさまざまな研究を鑑みると非常に説得力があり、フロイトやユングの夢の解釈のように突飛な感じもなく、おそらくこれが定説になるのではないかと思われる。

 そこからさらに一歩進めて、夢の内容をある程度コントロールする方法(明晰夢)や、夢を自分なりに解釈する方法まで紹介しており、そういう点では「夢大全」といった趣もある。これだけ雑多な内容を盛り込みながらも読み物として一貫した構成になっていて、そういう意味でもなかなか良くできた本である。著者は研究者ではなくジャーナリストで、そのあたりも構成の巧みさの要因になっているのかも知れない。

 ただし、時系列で紹介するという方法は必ずしも読みやすさにはつながらない。結果がわかった上で、帰納的に検討していく(読んでいく)という方法の方が、読みやすさに貢献することもある。時系列の場合、ブラックボックスのまま読み進めるわけで、先が見えない面白さをもたらしたりしっかりした構成を作り上げる上では有効だが、(先が見えないゆえの)読みづらさが常に付随するという欠点もある。実際、この本を読み終えるのにかなり時間がかかったのだ。また途中、専門用語がわからなくなってネットで調べたりもしている。図版で脳の部位の用語を示すなど、もう少しサービスがあっても良かったのではと思う。翻訳文はこなれていて読みやすいが、矛盾を感じる部分が2、3あり、「誤訳?」と思う箇所もいくつかあった。とは言え、真摯な良書であり、多くの人の興味をひくテーマであることはまちがいない。

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