睡眠こそ最強の解決策である

マシュー・ウォーカー著、桜田直美訳
SBクリエイティブ

睡眠を甘く見るなってことだ

 「睡眠のエキスパート」である著者が睡眠の最新知見を紹介する。

 さまざまな研究や実験結果を交えながら、睡眠の仕組みやその重要性を紹介していく。中にはレム睡眠とノンレム睡眠が持つ意味や睡眠が記憶に果たす役割なども出てきて、内容は非常に充実しておりエキサイティングである。

 本書によると、ノンレム睡眠時に昼間の記憶が脳の中で取捨選択され、レム睡眠時にそれが統合されていくということで、どちらも人が生きていく上で重要な役割を果たしている。特にレム睡眠については、昼間の恐怖体験を恐怖感抜きで夢として再現することによって、自分の中でノーマルな体験の一部として定着させる役割があると言い、要はPTSDやトラウマの解消に役に立っているのではないかという見方をしている。非常に斬新で興味深い。

 また睡眠が足りないと昼間何らかの形でそれを取り戻すことになっており、そのために超短期の睡眠が随時現れているというのも本書を通じて初めて知った。そのためもあって、睡眠が少ない人々は事故や怪我の確率が高くなるというのも面白い話である。

 本書によると、睡眠不足(および睡眠の質の低下)は、体調不良の原因になる他、抑うつ状態を生み出し、過剰な食欲までももたらす。睡眠不足には、人間生活にとってありとあらゆるネガティブな側面があり、現代人はすぐにでも睡眠の大切さを見直し、今の睡眠軽視の傾向を転換させるべきとするのが本書の主張である。そのために我々は何をすべきかまで紹介されており、そういう点で非常に網羅的である。

 全体は4つのパートに別れており、全16章がそれぞれのパートに分けられている。パート1で眠りの意味、パート2で眠りの重要性、パート3で夢の役割、パート4で眠りを改善させる方法についてそれぞれ扱っており、僕自身はパート2とパート3に特に興味を惹かれた。パート4については、少し度が過ぎているというか思い込みが過ぎていると感じる部分が多く、最後の15章と16章については眉唾と感じるものが多かった。特に睡眠に対するアルコールの影響の甚大さについては誇張が過ぎるのではないかと感じたが、本当のところはわからない。

 いずれにしても、現代社会で睡眠があまりに軽視されているのは確かで、睡眠を見直すべきという主張には100%同意する。読みどころは非常に多く、興味のある箇所だけ読んでも十分得るものがあると思える。『脳は眠らない』『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?』などの著書とあわせて読むと、睡眠の重要性に対する理解をいっそう深めることができること請け合いである。すべての現代人の指針となる本と言える。

医学、生物学
本の紹介『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?』
医学、生物学
本の紹介『脳は眠らない』
医学、生物学
本の紹介『「金縛り」の謎を解く』
医学、生物学
本の紹介『子どもの夜ふかし 脳への脅威』