ビギナーズ・クラシックス 雨月物語

上田秋成著、佐藤至子編
角川ソフィア文庫

『雨月物語』の原文が持つ味わいを堪能できる

 前にマンガ版の『雨月物語』を読んだので少し原典にも当たっておきたいと思い『ビギナーズ・クラシックス』シリーズの『雨月物語』を読んでみた。

 『雨月物語』は全部で9編の奇譚で構成されている短編集だが、あのマンガでは4編しか紹介されていなかった。本書では、スーパーダイジェストではあるが、全9編すべて(「白峯」、「菊花の約」、「浅茅が宿」、「夢応の鯉魚」、「仏法僧」、「吉備津の釜」、「蛇性の婬」、「青頭巾」、「貧福論」)が紹介されている。

 例によって、特定部分がピックアップされて、訳文、原文、解説の順に提示される。原文は江戸時代の文語体であるため、そのままでもある程度は理解できる(ただし難解な語句や言い回しがあるため、原文だけで読むにはある程度の注が必要ではある)。もっとも取り上げられている部分が少なめであるため、ほとんどの部分は、解説内でのストーリーの紹介で知ることになる。そのあたりは多少物足りない印象であるが、元々の話がそれなりにボリュームがあるため、これは致し方ないところではある。そのため本書は、ストーリーだけでなく原文の味わいがわかるという点が最大のメリットと言うことができる。

 原文については、いろいろな修辞が使われている他、古典作品のフレーズもさりげなく引用されているなど、かなり凝った文章になっている。かなりの教養がなければ気が付かないが、それについても原典を紹介するなど、きめ細かな解説があるため、原典の味わいを堪能できる。大変ありがたい配慮と言える。

 総じて、物足りなさは残るが、『雨月物語』の入門書としてよくできている本で、『ビギナーズ・クラシックス』の成功例の1つと言えるのではないかと思う。

-マンガ-
本の紹介『漫画訳 雨月物語』
-マンガ-
本の紹介『雨月物語―マンガ日本の古典』
-古文-
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス おくのほそ道』
-古文-
本の紹介『世間胸算用』
-古文-
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス 小林一茶』
-古文-
本の紹介『宇治拾遺物語』
-古文-
本の紹介『梅沢本 古本説話集』
-文学-
本の紹介『羅生門・鼻・芋粥・偸盗』