御伽草子―マンガ日本の古典(21)
やまだ紫著
中公文庫
マンガは秀逸だが、題材が惜しい
『マンガ日本の古典』シリーズは日本の古典作品をマンガ化するという企画で、本書は全32巻ある中の第21巻。題材は『御伽草子』で、これを担当するマンガ家はなんとやまだ紫! やまだ紫……知らない人はまったく知らないと思うが、相当な実力者で、作画も内容も傑出した作家である(すでに死去)。そのやまだ紫が苦労に苦労を重ねてマンガ化した(という)のがこの『御伽草子』である。
ただしマンガ化した対象が『御伽草子』というのは少し残念な気もする。『御伽草子』は室町時代頃の説話を総称したもので、有名なものに「一寸法師」や「鉢かづき」、「ものくさ太郎」などがある。というわけで、ふたを開けてみると「おとぎ話じゃん」ということになる。こういうものを原作(つまり古典作品)で読めば、現代のおとぎ話とギャップがあってさぞかし面白いと思うが、これをマンガ化するとそれこそ子ども向けおとぎ話集になってしまうわけで、そのあたりが残念なところである。もちろん、さすがやまだ紫で、絵や表現は抜群のうまさ、面白さなのだが、なにしろ内容が内容。他の古典作品をマンガ化してほしかった気もするが致し方ない。
さて、この『御伽草子』で取り上げられたのは、上記の3編の他、「長谷雄草子」、「酒呑童子」、「猫の草子」で計6編。この後者の3編については、僕は内容をあまり知らなかったためなかなか楽しめた。先ほども言ったが、とぼけた表情や優美な女性の表現など、マンガ表現はなかなかのものである。さながら現代の絵巻物といった風情で芸術性も高い。もっとも「現代のマンガはかつての絵巻物の系統をひいている」という人もいるくらいなんで、現代最高のマンガ作家の1人、やまだ紫の作が「絵巻物」的であってもまったくもって違和感はない。
このシリーズ、すでにこれまで何点か紹介しているが、他にも錚々たる顔ぶれ(マンガ家)が古典のマンガ化に挑んでおり、なかなか意欲的であると同時にうれしいシリーズである。決して学習マンガにとどまる水準ではない。