雨月物語—マンガ日本の古典 (28)
木原敏江著
中公文庫
『雨月物語』の恰好の入門書
中公文庫の「マンガ日本の古典」シリーズの1冊。原作は上田秋成の怪異談集『雨月物語』である。
作画は『雨月物語』をすでに二回もマンガ化した経験を持つという木原敏江で、『雨月物語』についての理解も深そうである。実際翻案としてはよくできていて、絵も丁寧に描かれ、登場人物の描き分けもしっかり行われている。スペクタクルの要素もうまく取り込まれているため、エンタテイメントとしても楽しむことができる。
原作の『雨月物語』は9編構成で、このマンガではその中から「菊花の約」、「浅茅が宿」、「吉備津の釜」、「蛇性の婬」の4編が収録されている。中でも「浅茅が宿」は、溝口健二の映画『雨月物語』の題材になったもので割合有名な話。家に妻を残したまましばらく都に出稼ぎに出ていて、やっと帰ることができ、ひたすら夫の帰りを待っていた妻とついに会うことができたは良いものの、実はその妻はすでに死んでいて、そのときに会ったのは亡霊だったというストーリー。この話にはさまざまなバリエーションがあり、いろいろな場所でネタとして使われている割合古典的な話である。他の3本はやや異色なストーリーであるが、怪異談が好きな人には楽しめると思われる。
僕自身はあまりこういったストーリーを面白いと思わない人間であるが、『雨月物語』については多少の興味があった。原文も非常に典雅で名文らしいので、いずれ少しでも読んでみようとは思っているが、その導入としてこういったマンガを触れるのも良かろうと思い今回このマンガを読んでみたわけである。本書では原文の一部もマンガに織り交ぜており、しかも折に触れて脚注も入れられているため、入門書としては優れている。僕としてはこのマンガを通じて『雨月物語』に一層興味が湧いたので、当初の目的は達成されたと言うことになる。