五色の舟
津原泰水原作、近藤ようこ著
KADOKAWA/エンターブレイン
近藤ようこによって完成された
幻想的な世界観
津原泰水という作家の同名短編小説をマンガ化したもの。元々SFやホラーを書いている作家らしいが、この小説は幻想小説という分類に入るのか。SF的でもあるが、かなり不可思議な世界である。
太平洋戦争下の日本(広島をはじめとする中国地方)で、各地を巡業している見世物小屋一座の話。足のない男(父親的な位置付け)、小人症の少年(長男的な位置付け)、シャム双生児の生き残りの娘、そして腕のない少年(主人公)という構成の一座で、その後、膝が逆向きに付いている若い女性(母親的な位置付け)も入ってくるが、彼らは「家族」として互いに信頼を寄せて船上で暮らしている。
そこに牛の体と人間の顔を持ち未来を予言する謎の生き物「くだん」の噂を聞きつけた父親が、その「くだん」を仲間として自分の一座に引き入れようと、くだんを求めて巡業の旅を続ける。最終的にくだんに辿り着くが、そこで意外な秘密が明かされ、意外な結末で終わるというストーリー。一種のパラレルワールドものと言えるかも知れないが、非常に特異な世界が描かれている。それが近藤ようこによって、独特の不思議な世界が構築されているというのがこの本である。
素材自体は、映画『泥の河』やシャム双生児のベトちゃんドクちゃんあたりから持ち寄ったんだろうと思われる。数十年前話題になった『典子は、今』という映画に出てきたようなシーンもあり、おそらくあの作品の影響もあることが考えられる。そもそも主人公の少年が『典子は、今』の主人公とよく似た障害を持っている。津原泰水と近藤ようこは僕と近い世代で、社会的な体験を共有しているためか、こういった素材についてはあまり意外性は感じないが、若い世代がこの作品に触れたらさぞかし驚くんじゃないかという気もする。
近藤ようこの作品は、絵があまり好きではなかったため、今まで接することはなかったが、(この作品については)醸し出される世界観が独特で、決してないがしろにできない作家であると感じた。以前、大友克洋と近藤ようこの作品を採用した雑誌は潰れるなどというジンクスというか噂(出所は不明)を聞いたことがあるが、大友克洋は言うまでもないが、近藤ようこも要注目である。それは間違いない。
第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞