高丘親王航海記 IIV

澁澤龍彦原作、近藤ようこ著
KADOKAWA

幻想世界がおとぎ話のように展開される

 澁澤龍彦の小説、『高丘親王航海記』をマンガ化した作品。

 なんでも元々は南伸坊が著者の近藤ようこに『高丘親王航海記』のマンガ化をせがんだところから話が始まったという。南伸坊によると、原作の世界観が近藤ようこのマンガにフィットしているということらしい。当初近藤ようこは、難しすぎると二の足を踏んでいたが、その後考えを改め、全力で翻案に取り組んだという。その結果生み出されたのがこのマンガである。

 ストーリーは、平城へいぜい天皇の皇子で、次期天皇として立太子していたにもかかわらず薬子くすこの変(西暦810年)の影響で廃され出家した高丘親王が、その晩年に天竺行きを決意し、2人の供をつれて航海の旅に出るという逸話が基になっていて、中国大陸からインドシナ、インドネシアを経由しスリランカ(すべて現在の地名)に至る手前で遭難するまでが描かれる。物語はすべて幻想的な雰囲気が漂い、奇妙な生き物(ジュゴン、貘、アリクイなど)が登場して人の言葉を話したり、砂漠でミイラ捜しをしているうちに(死んだはずの)師匠の空海や鳥人間に出会ったりと、きわめて奔放自由に独特な世界が展開される。奇想天外ではあるが、ストーリーが自然に流れる上、絵も白い部分が多い、やや脱力系の雰囲気であるため、独自の世界が形成されていて、違和感はまったくない。面白いかと言われれば好みの分かれるところではあるが、文学のマンガ化作品としては、十分な価値を持つ成功例と言える。

 近藤ようこは、文学作品をこれまで何度もマンガ化しているが、この作品は、その中でも上位の部類に入ると言って良いのではないかと思う。2019年から2年かけて雑誌『月刊コミックビーム』で発表され、それが全4巻にまとめられた。結構な力作である。

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