S先生の言葉

山田太一著
河出文庫

期待はずれの一冊

 脚本家、山田太一のエッセイ集。いろいろな素材から編集者が素材を集めた一種のアンソロジーである。

 山田太一は、シナリオ・ライターとしては言うまでもないが、エッセイ作家としても僕はただ者ではないと思っていて、特に『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』は非常に感心し感銘を受けた一冊である。ただ本書で選ばれているエッセイは、それほど鮮烈な印象を受けるようなものはあまりない。中には小説風のものや愚痴めいたものもあってバラエティに富んでいるとも言えるが、著者の鋭い洞察を期待してこの本を買った身としては、少々期待外れだった。

 中には他の人の本に収録された「解説」まであって、これを選ぶ必要があったのか疑問に感じる。それに論点がしっかりしていないようなものもあって、果たして選ばれるべき作品なのかと思ったりもする。著者のポテンシャルを考えた場合、もっと良いものもあったはずだと思うし、もう少し吟味して選んでいただきたかったと思う。

 ただ、これだけ集めると、著者の人柄や人間性が染みだしてきて、人間、山田太一を知るには良い素材だと言える。編集者は本書刊行の数年前『総特集 山田太一』を担当した人だということだが、要するに同じようなコンセプトの本ということができる。だが実際のところほとんどの読者は、山田太一自身に関心があるのではなく山田太一作品に関心があり、彼が何を物語るかに興味があるわけで、そうするとやはり人間性云々より、その主張や思いなどに接したいと感じるのではないだろうか。そういうものを中心に集めたら、もう少しグレードの高い本になったんではないかという気がする。

-教育-
本の紹介『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』
-文学-
本の紹介『空也上人がいた』New!!