その時あの時の今
私記テレビドラマ50年

山田太一著
河出文庫

戦後のドラマを語り尽くす
山田太一編

 同じ河出文庫から出た山田太一のエッセイ集、『S先生の言葉』は非常に物足りなかったが、同じシリーズのこのエッセイ集は抜群に面白い。

 この本では、テレビ関連、ドラマ関連のネタばかりを集めているが、テレビで長年活躍している著者だけに、そういう話の方が断然面白いには違いない。実際面白いわけで、体調問題からドラマの主演に消極的であった笠智衆をあの手この手で引っ張り出した話や、『岸辺のアルバム』を製作するときにあこがれの八千草薫に主演を頼み込んだ話(八千草は当初から乗り気ではなかったらしい)は、ドラマの裏話として、ドラマ・ファンにとっては堪えられない魅力がある。特に後者の八千草薫の話(「遠い星の人」:78年『家庭画報』初出)は内容もさることながら、(著者の照れ隠しなのかも知れないが)文章が躍動していてエッセイとしても素晴らしい出来である。

 また、自身の修業時代(木下恵介に就いていた頃)の話や映画会社時代での話は、かつて放送されたインタビュー番組とも一部内容はかぶるが、青春記としても読める内容でこちらも大変興味深い。

 後半は「自作再見」という副題付きで、過去の作品群について自ら書いたエッセイが集められている。多くは、著者のシナリオ集の巻末エッセイをそのまま引っぱってきたものであるが、それぞれの作品の裏話みたいなものが披露されていて興味深い。正直、本の巻末に載っているエッセイや解説などというものは、大した価値がないと思っていたし、どちらかと言うとありがた迷惑のように感じることが多いが、こうやっていろいろな本から集めてくると別の見方ができ、価値が大いに上がる。これは企画の勝利と言って良い。実際こういう形で読むととても面白い。ある世界で一流の人にはやはりその世界のことについて語ってもらうのが一番……という至極当たり前の結論に達したのであった。

-随筆-
本の紹介『S先生の言葉』
-随筆-
本の紹介『寺山修司からの手紙』
-教育-
本の紹介『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』
-文学-
本の紹介『空也上人がいた』