「古今和歌集」の創造力

鈴木宏子著
NHK出版

山桜 霞の間より見む歌に
宇多の御代にも恋をするかな

 平安時代初期(西暦905年)に編纂された『古今和歌集』と、それに収録されている和歌のあれこれについて紹介する本。和歌にはそれほど関心はなかったが、新聞の書評で絶賛されていたことから今回この本を読んでみた。

 元々さほど関心のあるテーマではなかったが、この本は密度が濃く、興味深い事項が多く出てくる。平安文学の基本と言っても良いような事項も非常に多く、逆にこのくらいの知識がなければ平安文学の多くは理解できないんじゃないかぐらいのことまで感じさせられる。著者が、自分の中に持つ『古今和歌集』と和歌についての思いのありったけをぶつけているような力強さも感じられ、読む方も真摯に受け止めるべき本であると感じた。

 内容が多岐に渡っているため、この本を一言で言い表すのはなかなか難しいが、『古今和歌集』の特徴について著者なりの解釈を示しているあたりがまず目を引く。つまり『古今和歌集』は、醍醐天皇が編纂させた日本最初の勅撰和歌集でありしかもその後二十の勅撰和歌集がこれに倣って作られたというほどの大きな影響力を持つ歴史的大著であるが、作られた当初はそれほどの巨大プロジェクトであるという認識が当事者たちに無かったのではないかというのが著者の主張であり、なかなか面白い仮説である。それについては、編者たちの身分が比較的低いことや、編者である紀貫之の和歌が非常に多いなど歌の選択に偏りが見られる点などが根拠として挙げられている。和歌の選択についても、『古今集』には万葉集の時代の和歌(万葉集に収められている和歌も含まれている)、六歌仙の時代の和歌、選者と同時代の和歌というふうに収められている和歌が比較的長い時代に渡っているが、そのあたりも必ずしも一貫性があるわけではなく、割合ランダムのようである。そういった和歌群1111首を、四季(春、夏、秋、冬)、賀、離別、羈旅、物名、恋(一〜五)、哀傷、雑、雑躰、大歌所御歌というカテゴリーに分けて並べているが、これもあまり必然性があるようには思えない(全二十巻構成)。だがこういう編纂方法を採った結果、結果的にこの和歌集のできが良かったために、その後の時代でもこれと同様の形式で和歌集が編まれることになった。それが、その後の二十の勅撰和歌集(『古今集』を含め二十一代集と呼ばれる)であるとするのである。

 また、和歌で取り上げられる題材の組み合わせ(花と霞、梅と雪、雁と月)も、その多くが『古今集』に由来しているというのも面白い指摘である。つまり日本的と考えられている美意識の「型」を作ったのが『古今集』というわけである。

 和歌で使われるレトリック(掛詞、序詞、縁語など)が盛んになったのも『古今集』の時代ということで、レトリックについても紙面が多く割かれている。非常に詳細かつわかりやすく、『和歌のルール』の記述にも繋がるような内容であることよと思っていたが、実はあの本にも本書の著者が参加していたのだった。

 当然のごとく和歌も多数紹介されており、約二百首ほどが解説付きで出てくる。『古今集』の和歌には頻出する決まり文句もいくつかあるそうで、その代表格の「恋もするかな」という決まり文句が付いた和歌を並べた箇所などもなかなか秀逸である。そう言えば以前どこかで、最後に「秋の夕暮れ」を付けとけばとりあえず平安風の和歌になるみたいな話を聞いたことがあるが、あれと一緒か。

 ともかく、『古今集』や平安和歌のあれやこれやが広範囲に紹介されているため(もちろん広範囲と言っても和歌という狭い世界を出ることはないんだが)、ああいった雅な世界や、古典的な詩に興味があるのなら、読んで損はない良書であると思う。

-古文-
本の紹介『和歌のルール』
-古文-
本の紹介『古典和歌入門』
-古文-
本の紹介『恋する伊勢物語』