オーイ!! やまびこ (1)〜(5)
矢口高雄著
講談社コミックス
日本の農村の原風景が再現される
矢口高雄の自伝的作品、「昭和三部作」の一つで、小学生時代を描いたのがこの作品。中学生編が『蛍雪時代 – ボクの中学生日記』で、サラリーマン編が『9で割れ!!』、小学生編の本作とあわせて「昭和三部作」と(一部で)呼ぶらしい。発表年代は、本作が1988年、『蛍雪時代』と『9で割れ!!』が1993年で、どれも著者のマンガ家としての名声が確立した後の作で、作画やストーリーなどは完成されている。
内容は、『ボクの学校は山と川』および『ボクの先生は山と川』と共通する……というかこれをマンガ化したものが本作と『蛍雪時代』であるわけだ。
そのため、前記2作および『蛍雪時代』を呼んだ僕としては目新しさはあまりなく、そういう点で少々もったいない気もするが、しかし本作の価値が損なわれることはない。著者には『ボクの手塚治虫』と言う作品もあるが、これも、元々本作の連載時に、その中のエピソードとして描かれた作品だけを集めたものらしい。あいにく本書には収録されていなかったが、内容は一部共通している。
本書の舞台になっている著者の少年時代は、昭和20年代の秋田の農村で、まだあまり都市化されていないため、おそらく江戸・明治期から連綿と続いている農村生活がそのまま残っていたと考えられる。日本人の多数を占めていた農民がかつてこういう生活を送っていたのだということが、作画を通じてよくわかり、文化人類学的、あるいは民俗学的な価値も本書からは感じられる。しかもその描写が、当時の子どもの視点で微に入り細を穿った形で描写されているため大変価値が高い。
基本的に著者の態度は、子ども時代を懐かしむようなものであるが、決してその土地が理想郷というわけではなく、生活する上でかなりの困難が伴っている(大雪であったり厳しい農村生活であったりする)。しかしそれを苦にしないで、労力を惜しまず生活を存分に楽しもうとする人々の姿が、本書には描き出されている。特に主人公(子ども時代の著者がモデル)は、マンガや昆虫、釣りと興味が尽きず、まさに田舎生活を謳歌していると感じられる。これこそが文化的生活というものである。
前にも書いたが、本書に収録されている作品のうち2本は、文庫版の『ボクの学校は山と川』(「百日咳」)と『ボクの先生は山と川』(「長持唄考」)に収録されている。どちらも傑作で、『オーイ!! やまびこ』の中でも傑出している作品である。
なお、「長持唄考」については、元々デビュー作品だったんだが、『オーイ!! やまびこ』執筆時にあらためて描き直したものということだ。道理で完成度が高かったわけだ(『ボクの先生は山と川』を参照)。