光村ライブラリー6 太郎こおろぎ ほか
光村ライブラリー10 空飛ぶライオン ほか
光村ライブラリー14 木龍うるし ほか
山下明生他、佐野洋子他、石井睦美他著
光村図書出版
教科書まるごとで触れないことには
「中くらいなり」の懐かしさ
以前から懐かしい品物をオークションなどで探し出し、しきりに買っている(そして懐かしさに浸っている)のだが、最近は、かつて小中学時代に使った教科書にまで矛先が向かっている。
小学校の国語教科書についてはそれなりに記憶があり、たまに「セイロンのカルナナンダ」とか「アムンゼンとスコット」とか「ビバ、フランス!」だとかいう文言が頭の中に浮かぶんだが、これは小学校の国語の教科書に載っていた教材から来ている。この教科書は1970年代前半の光村図書のもので、僕が通っていた小学校ではこれを採用していたのだ。国語の授業は、学校でどんなことをやっていたかほとんど記憶にないが、題材については先ほども言ったように割合頭に残っている。
実のところ、カルナナンダもアムンゼンも、断片的に憶えているだけで、教科書がどこの会社のものかすらわからなかったんだが、「カルナナンダ」でネット検索したところ、光村図書のサイトに辿り着き、当時の教科書とその教材名(「カルナナンダ」の教材は「ゼッケン67」というタイトル)だけ知ることができたのである。
こういった教材の中には、『光村ライブラリー』というタイトルの本で再録されているものもあるらしく、光村図書としてはその宣伝も兼ねて、このような情報を同社サイトで提供しているのだろうと思う。今回読んでみたのはその『光村ライブラリー』で、僕がかつて触れた教科書で採用されていた教材が一部収録されている3冊である。なお、「ゼッケン67」や「アムンゼンとスコット」は、執筆者名が明記されていなかった教材で、このシリーズには残念ながら、こういったものはほぼ収録されていない。
このアンソロジーの作品の中には、記憶に残っていたものもあるが、(触れていたはずなのに)まったく憶えていないものもあって、まずそれに驚く。毎日のように触れていたにもかかわらず、まったく憶えていないなんてことがあるのかと我ながら思う。たとえば、トルストイの「とびこめ」は『光村ライブラリー6』に収録されていて、しかも当時の教科書にもあったようだが、まったく初見の印象である。面白い話なので、多少の記憶に残っていてもよさそうだが、まったくない。他にもこの『光村ライブラリー6』には、「はまべのいす」、「エルマー,とらに会う」、「太郎こおろぎ」、「貝がら」、「吉四六話」が収録されていて、勉強したはずの「貝がら」はまったく記憶になかった。唯一「太郎こおろぎ」は内容も割合憶えていた。なお「太郎こおろぎ」は3年生、「貝がら」、「とびこめ」は4年生の教科書に掲載されていたものである。
『光村ライブラリー10』のラインナップは、「空飛ぶライオン」、「アナトール,工場へ行く」、「子牛の話」、「ひと朝だけの朝顔」、「茂吉のねこ」、『光村ライブラリー14』のラインナップは、「南に帰る」、「三人の旅人たち」、「たん生日」、「かくれんぼう」、「木龍うるし」である。このうち僕が小学校で触れたはずなのは「ひと朝だけの朝顔」と「木龍うるし」で、「ひと朝だけの朝顔」はまったく記憶になかった。ちなみに作者は井上靖で、ユニークな短編小説であった。どの教材も面白い素材で、アンソロジーとして読む分には十分楽しめる本ではあるが、懐かしさを求めて読む分には少しもの足りない。やはり教科書まるごとで触れないことには、「中くらいなり」の懐かしさで終わってしまう。
なお、教科書の素材の中には有名な作品も一部あり(6年生の教材に収録されているドーデの「最後の授業」や小川未明の「殿さまの茶わん」など)、こういう作品については、概ね別の形で出版されており、そちらで読めるため、この類のアンソロジーでがんばって探す必要はない。僕自身も「殿さまの茶わん」は『小川未明童話集』ですでに読んでいる。だからこそ、(出版機会があまりない)執筆者が明示されていない教材の方を読みたいのである。そういう点では物足りなさが大いに残る。