水木しげるの遠野物語

柳田國男原作、水木しげる著
小学館

マンガ化の水準がきわめて高い

 柳田國男の『遠野物語』を水木しげるがマンガ化した作品。元々は雑誌『ビッグコミック』に連載したものらしい。

 『遠野物語』は、柳田國男が岩手県の遠野地方に伝わる伝承話を知人から聞いて書き起こしたものであり、全119話(といってもほとんどの話は数行というもので非常に短い)からなる短い書で、日本の民俗学の嚆矢こうしとされている。怪異譚や怪奇話などが多く、妖怪の第一人者、水木しげるにはうってつけの素材である。この119話から一部(重複している話やあまりにどうでもよいような話)を取り除き、全29回に渡り数話ずつまとめて連載したものがこの作品である。

 翻案は原文に非常に忠実であり、作画も水木しげるらしく非常に丁寧であるため、原文で読むということにこだわらないのであればこのマンガは格好の素材と言える。「入門云々」ではなく『遠野物語』をほぼ網羅しているため、このマンガを読んで『遠野物語』を読んだ気になってもまったく差し支えないと思う。実際『遠野物語』は明治の文語体で書かれているため、現代語訳などというものまで出ているが、このマンガは「現代語訳」と同レベルの優れた翻案である。僕は今回、原典と照らし合わせながら読んだんだが、かなり忠実に翻案されているのは確かで、その点、非常に感心したんである。

 『遠野物語』の特徴はと言えば、(遠野地方が三方を山で囲まれた地域であるためか)山に恐ろしげな人がおり、彼らと遭遇することによって事件が起こるという話が多いことである。中にはただ単に山の人に遭遇したというだけの話もある。第116話がヤマハハ(俗に言うヤマンバ)の話で、『遠野物語』の中ではもっとも一般に知られているものだろうと思う。要はヤマンバに襲われた娘が、何とか石の唐櫃からうどに入ってやり過ごし、その後、同じ家屋内の木の唐櫃で眠ったヤマンバを煮え湯でやっつけるというあの有名な話である。多くの話は割合ありきたりなもので、今となっては意外性のあるものはあまりない。原作はまずまずそんなところだが、やはりなんと言っても、原作の味やストーリーをそのまま活かしきっていてしかも遠野の雰囲気を丁寧に作画しているという点で、マンガ化の水準がきわめて高いこと、それがこの本の最大の魅力と言える。

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