コミック昭和史 第5巻 太平洋戦争後半
コミック昭和史 第6巻 終戦から朝鮮戦争
コミック昭和史 第7巻 講和から復興
コミック昭和史 第8巻 高度成長以降
水木しげる著
講談社文庫
同時代の視点による昭和史
泰平の昭和元禄へと舵を切る
水木しげるのコミック昭和史の後半。
太平洋戦争で死地をさまよい、やがて敗戦を迎える。その後、戦後の貧しい時代を経て、マンガ家として成功するまでを描く。その背景となる昭和史が縦糸で、水木しげるの自伝が横糸をなしており、ちょっとした大河ドラマになっている。
第5巻は、第4巻に引き続き、おそろしく暗い戦争時代。ただ第4巻を読んでから時間が経っていたので意外にすんなり読めた。戦場での(馬鹿馬鹿しいほどの)人間関係が中心で、日本の参謀本部の無策さ、低能さも印象づけられる。それにより、現場の大勢の兵隊(そのうちの一人が著者なんだが)がその犠牲になる。
戦争は第6巻でも続く。内容は相変わらず重いが、先住民との交流がある他、終戦の光も見えてくる。やがて敗戦、復員を経て、紙芝居画家になるまでが第6巻である。このあたりから、かつて放送されたテレビ・ドラマ『ゲゲゲの女房』と重なってくる。
第7巻、第8巻は、マンガ家に転身し、極貧生活を経験した後、成功するまでである。このあたりは背景となっている昭和史が僕自身の経験と重なるため、時代背景は(僕にとって)非常にわかりやすい。また、青林堂の長井勝一、東考社の桜井昌一、マンガ家の白土三平、つげ義春、池上遼一なども登場して、日本マンガ史の一部が語られることになる。ちなみに白土三平は怪人のような風貌で現れる。
著者も後書きで触れているが、昭和という時代が著者の人生の大部分と重なっているため、著者個人の歴史自体が昭和の歴史そのものになっている。それが、「昭和史」という看板を掲げた本書にも厚みをもたらすことになっている。ともかく本書の内容は、重厚であると同時にブレがなく、そこから照らし出された昭和という時代も、庶民から見たミクロ的な歴史観であり、そういう意味でも資料的な価値があると思う。間違いなく、水木しげるの代表作であり、最高傑作の1つであると断言できる。