谷崎万華鏡
山口晃、高野文子、榎本俊二、今日マチ子、山田参助、近藤聡乃、古屋兎丸他著
中央公論新社
山口晃、高野文子、近藤聡乃が目玉
谷崎潤一郎のいろいろな小説をマンガ化した一種のアンソロジー。内容は、久世番子「谷崎ガールズ」、古屋兎丸「少年」、西村ツチカ「人間が猿になった話」、近藤聡乃「夢の浮橋」、山田参助「飈風」、今日マチ子「痴人の愛」、中村明日美子「続続蘿洞先生」、榎本俊二「青塚氏の話」、高野文子「陰翳礼讃」、しりあがり寿「瘋癲老人日記」、山口晃「台所太平記」。
高野文子としりあがり寿以外の作家はほとんど知らなかったが、まず彼らの画力と表現力に驚いた。今のマンガ界はこんなに才能が集まっているのかと感心する。特に「台所太平記」の山口晃はその画力に驚いた。こんな画力のあるマンガ家が存在していたとはまったく知らなかったが、その後調べたところ若手画家の山口晃であることが判明。この人の絵は前から画力と飄逸さが面白いと思っていたので、このマンガについてもさもありなんである。それよりこの人がマンガを描くということの方がが驚きであった。この作品は特に質が高いが、紙面の都合もあり、26ページのダイジェスト的なものになっている。こういったダイジェストではなく、全編を翻案したものをぜひ描いてほしいものである。
高野文子にも(ファンである身としては)当然触れておくべきだが、なんせ随筆(「陰翳礼讃」)をマンガ化していて、それだけで本書の中で異色な存在なんだが、できあがった作品はほとんど挿絵と言っていいもので原文の隣に絵が入っているという内容である。ただしそれでも詩的な情緒が現れているのがやはり高野文子作品で、これはこれで味わい深い。
前半は、特に谷崎の耽美的(変態的)な作品ばかりが出てきて、古屋兎丸の「少年」や榎本俊二の「青塚氏の話」はちょっと辟易してしまうが、漫画としては両者とも質が高い。古屋兎丸は丸尾末広の作品をきれいにしたような絵で、線が非常に美しい。今日マチ子の「痴人の愛」は解釈が新しいが、原作の味はよく再現されていてうまくまとまっていると思う。近藤聡乃の「夢の浮橋」も印象的で、セリフがすべて手書き文字であり幻想的な内容とマッチしている。
谷崎作品のアンソロジーとしては微妙ではあるが、今の若いマンガ作家のハイレベルな作品を目にあたりにすることができるという点で大いに価値のある本である。