白土三平伝
カムイ伝の真実
毛利甚八著
小学館
「ガロ」は白土三平主導で創刊された!
マンガ家、白土三平の評伝。白土三平と言えば、『忍者武芸帳』や『カムイ伝』で一世を風靡したマンガ家で、僕の世代では『サスケ』や『ワタリ』の作者という認識が強い。マスコミにもあまり出てこないため、実像が見えてこない作家という印象がある。そういう意味でも評伝が出たこと自体に意義がある。
著者は、マンガ『家栽の人』の原作者、毛利甚八で、白土三平とは個人的にもつきあいがあるらしい。白土三平の友人であり、ファンでもあり、同時に評伝作家という立場でもある。そのため本書も、客観性を装った一般的な評伝と異なり、友人としての顔、ファンとしての顔がちらちら見えてくる。そのため評伝ではありながら著者自身のエッセイみたいな要素もある。そしてそのさまざまな目線が、白土三平の人間像を浮き彫りにする上で役立っている。
もとより評伝であるため、白土三平の生い立ちからデビュー、そして現在に至る過程が詳細に描かれていて、作家としての白土三平に関心がある向きにも納得の内容である。ガロ編集長の長井勝一(『「ガロ」編集長』の項を参照)や水木しげるの著作(『コミック昭和史 第5巻〜第8巻』の項を参照)と併読すると、60年代のマンガ事情が見えてきて、あの「ガロの時代」が活き活きと甦ってくるようにも感じられる。本書では、ガロ創刊についての新事実が白土三平側から示されていて新鮮である。雑誌『ガロ』は長井勝一が主体となって始めたと思われていたが、実際には白土三平が自身の作品を自由に発表できる場所が欲しくて長井を誘い、資金を提供するという形で創刊されたらしい。また、小島剛夕との関係なども目新しい事実である。
一方でファン目線で書かれている箇所も個人的には興味を引く。それぞれの作品に独自の見解で解説を加え、それがまた白土三平の執筆当時の状況や嗜好との関連で記述されているので、作品解説として非常に適確である。そこには友人(と言っても毛利の方が大分年下である)として間近に接した白土像も盛り込まれている。白土作品を呼んだことのない人向けに、毛利自身が勧める読み方(読む順序)まで紹介されている。多面的なアプローチによる白土三平の評伝+解説本で、白土三平という人物を見事に浮き上がらせた、なかなかの好著である。