「ガロ」編集長
私の戦後漫画出版史

長井勝一著
ちくま文庫

伝説のマンガ雑誌「ガロ」の来し方

 今となっては伝説になってしまったマンガ雑誌「ガロ」を生み出した(これも)伝説の編集者、長井勝一の自伝半生記。

 長井勝一は、かつて放送されたNHKの朝のドラマ『ゲゲゲの女房』でも描かれていたように、多くのマンガ家を発掘し支援した、慈悲深い編集者であった。多くのマンガ家が、作品の中に長井の姿を戯画化して描いているのを見てもその人望がうかがい知れるというものだ(本書にも「マンガ家の描いた長井勝一」という一連のカットが載っている)。

 その長井勝一が、日本漫画社、三洋社、青林堂(ガロの版元)の時代を中心に自分史を語る。途中、3度結核で倒れ長期療養を強いられるが、その過程でマンガ出版を志し、優れたマンガ家を世に送り出すという使命に目覚めていく。特に青林堂時代には、日本のマンガ史に残るような錚々たるマンガ家たちを世に送り出している。先述の水木しげるやガロの花形であった白土三平は、青林堂時代に長井が発掘した作家ではないが、かれらにはときに発表の場を与え、ときに仕事を提供するといった形で貢献している。まさに「トキワ荘」派と双璧をなす日本マンガ史のもう一つの核である。

 さて、本書が記述されたのは1982年で、長井氏もガロもまだ健在であった。長井氏は1996年に死去し、その後「ガロ」も廃刊することになる。さらにその後、内部でゴタゴタがあったらしいが、それについてはよく知らない(現在の青林堂は、すでに長井氏の流れを汲んでおらず、差別的な出版物を発行する右翼的な出版社である)。今のマンガ界の隆盛を見ると、「ガロ」は十分その役割を果たし、長井氏とともにその役割を終えたと考えることもできる。

 本書の内容だが、とても読みやすい文章で、長井氏の文筆の才能も垣間見せてくれる。途中、話が前後するため、何度か前に戻って確認しなければならなかったが、意図的な構成のようで、破綻を来しているというわけではない。何度も前に戻りはしたが特に苦にならなかった。途中、さまざまなガロ・マンガ家の人となりや作品が紹介され、カットでも作品が掲載されていて、とてもわかりやすい。また彼らに対する愛情があふれていて、作家たちを惹きつけたと思われる人望もうかがい知ることができる。大きなことをなす人は、とどのつまりは人望ということになるんだろう。

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