まんが トキワ荘物語

手塚治虫他著
祥伝社新書

「トキワ荘」作家たちが
自ら描く「トキワ荘」

 かつて東京、椎名町に「トキワ荘」というアパートがあった。1953年から手塚治虫がこのアパートの1室を仕事場として使っていた縁で、その後、マンガ家を志して上京したばかりの寺田ヒロオが入居し、さらに藤子不二雄、石森章太郎、赤塚不二夫らが移ってきて、さながらマンガ家の集合住宅と化した。東京出身だったつのだじろうや園山俊二は、さすがにこのアパートに転居することはなかったがそれでもよく出入りしていたという。そういうわけで、かつてはマンガ・ファンの聖地となっていた。だが今はもう壊されて、存在しない。

 このトキワ荘だが、それぞれのマンガ家にとってやはり思い入れが深いようで、たびたび作品化されている。藤子不二雄の『まんが道』は一番有名だろうが、他にも石森章太郎、赤塚不二夫らもトキワ荘を題材にした作品を出している。

 手塚治虫が主宰していた『COM』という雑誌にも、さまざまなマンガ家がトキワ荘時代の想い出を描いていくというシリーズがあったようで、それが、1969〜70年に連載された「トキワ荘物語」である。それをまとめた本が1978年刊の『トキワ荘物語』(翠楊社)で、それを再編集して再出版したのが本書である。この祥伝社新書は、他にも手塚治虫のマイナーな作品を出しているようで、なかなか意欲的でヨイ。

 元々の連載は1969年10月号の水野英子から始まって、寺田ヒロオ(69年11月号)、藤子不二雄、長谷邦夫(69年12月号)、森安なおや(70年1月号)、鈴木伸一(70年2月号)、永田竹丸(70年3月号)、よこたとくお(70年4月号)、赤塚不二夫(70年5・6月号)、つのだじろう(70年7月号)、石ノ森章太郎(70年8月号)、手塚治虫(70年9月号)と続き、70年10月号には「<座談会>われらトキワ荘の仲間たち」が登場する。この本には、この12人分の作品と最後の座談会が収録されていて、当時の連載をほぼ網羅している(と思われる)。

 作品は、昔の状況をストレートに物語で語るものが多いが、石ノ森章太郎みたいに少しシュールな表現を駆使している作品や、手塚治虫みたいにトキワ荘自体を擬人化した意欲的な作品もある。どの作品も8〜16ページ程度である。それぞれ個性的で面白いが、やはりトップで活躍している人とそれ以外の人ではいくぶん差が感じられるように思う。あるいはこの企画に対しての思い入れもあるのかも知れないが、先ほどの手塚、石ノ森、それにつのだじろうと藤子不二雄の作品は丁寧に仕上げられていてグレードが高い。寺田ヒロオと赤塚不二夫の作品もそれぞれ特徴が出ていて良い。

 やはりなんと言ってもバラエティさが魅力で、当時の様子が各人の視点から描かれているため、トキワ荘を取り巻く全体像が見えてくる。新書形式の小さな本だが、魅力的な良い本である。よく復刊した! 感動した!

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