硝子戸の中

夏目漱石著
岩波文庫

大漱石の身辺雑記

 夏目漱石が、いわゆる「修善寺の大患」から一命を取り留めた後に書いた随筆集。タイトルの「硝子戸の中」は、病気療養のために自室の中に留まることが多かった漱石が、ガラス戸で囲まれた狭い世界に引きこもりながらも思いのたけを綴るという意味あいで付けられたもの。そのあたりの事情は、序章に当たる「一」で語られる。

 この随筆集は「一」から「三十九」までの39編で構成されており、元々は『大阪朝日新聞』に一編ずつ連載されたものである。それぞれ原稿用紙4枚程度の短い随筆で、中には2回、3回続きのものもある。当然のことながら、漱石の身辺のことが綴られて、小説とは異なる事情がいろいろと語られる。やたら色紙に俳句を書いてくれろと迫ってくる少々異常なファンの話(十二、十三)とか、たびたび家に訪ねてくる、何かを秘めていそうな女の話(六、七、八)とかが印象深い。とは言え、どれも身辺雑記みたいな話で、大漱石とは言え、飛びつくような面白い話はあまりない。

 ただしこの本、岩波文庫だからか解説(竹盛天雄著)が非常に丁寧で、全編がどういう構成になっているかとか、草稿の段階からどのような話が削られたかとか、なかなか興味深い内容が紹介される。さらには、「硝子戸の中」の「中」を「なか」と読むべきか「うち」と読むべきかというような考察もある。まさに「解説」である。文庫本の解説は一般的にひどいものが多いというのが現実であるが、岩波文庫の解説はひと味違う(本の紹介『富嶽百景・走れメロス 他八篇』を参照)。どこの出版社もこれぐらいの文章を載せるよう心がけてほしいものである。

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本の紹介『草枕』
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本の紹介『富嶽百景・走れメロス 他八篇』
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