インフルエンザワクチンは打たないで
母里啓子著
双葉社
ワクチン行政や医療を取り巻く状況は絶望的
『もうワクチンはやめなさい』の著者、母里啓子の著書。といっても、この本の方がかなり前に出版されているため、この本の主張こそが著者の原点であるという捉え方もできる。
この本で取り上げられているのは、主にインフルエンザワクチンで、インフルエンザワクチンについてはすでに世間で「まったく効果がない」という言説も普通に飛びかっているため、それほど目新しさはないと感じるかも知れないが、本書では「効果がないだけでなく有害である」と結論付けている。
本書執筆(2007年)の時点で、予防接種の副作用として、アナフィラキシーショックなどのアレルギー疾患に加え、ギランバレー症候群(免疫機能の障害)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM:脊髄などの神経の炎症)などが(ワクチンメーカーによって)報告されているが、それに関する具体的なデータを厚労省が集めていないため、実際はどの程度の頻度でこういう問題が発生しているかまったくわからない。一方で「任意接種」という位置付けになっているため、副作用に対する保障が一切行われない(接種は自己責任になるらしい)という、かなり危険性の高い代物であり、決して「念のため打っておく」というようなものではないという。
また、ワクチンの感染予防効果自体も、免疫を(喉などのウイルス感染部位ではなく)「体内に」作るというその仕組みから判断すると薄いと考えられる上、前橋レポート(1987年に発表された、有名な疫学調査の結果報告)では、インフルエンザワクチンにはインフルエンザの予防効果がまったくないという結論が出ている。そもそも現在のインフルエンザはほとんど風邪と変わらず、感染してはいるが発症していないというケースも多いらしく、そのために他者(発症していないために自覚症状がない感染者)から感染することは避けられないのであって、万一発症したら身体を休めるようにするのが筋、というのが著者の主張である。何よりワクチン自体、インフルエンザ流行の何ヶ月も前から作らなければいけないため、流行する型と合うかどうかまったくわからない(実際はかなりいい加減に予想されているらしい)、しかもそもそもインフルエンザのウイルス自体、次々に変異しているため、たとえ型が合ったからといって効果があるとは思えない……などということも紹介されている。
著者自身、日本脳炎のワクチン開発に携わっており、その際に日本脳炎ワクチンに付きものだったADEMなどの副作用を少しでも解消しようと研究開発していたらしい(日本脳炎ワクチンはネズミの脳を使って作っていたことから、脳の細胞がワクチン内に残留し、それによってネズミの脳に対する免疫反応が接種者自身の体内で起こって、それが自身の脳を傷害し神経障害が起こるという機序も紹介されている)が、そもそもワクチンにはそういった副作用が付きものなのであり、まったく問題がないかのように喧伝することが間違っているとしている。したがって現在の行政のあり方にも憤りを感じているようで、問題を伝えようとしないマスコミに対しても歯がゆい思いをしているようである。また、本当のことを語ろうとしない医師に対しても不信感を持っているようで、そういった、ワクチンを取り巻く情勢全般について批判している。
インフルエンザワクチンの本ではあるが、ワクチン行政や医療の問題全般について告発しており、なかなか意欲的な本で、背景が詳細に紹介されていることから説得力もある。非常に良い本だが、現在絶版状態で、古本に高値がつけられて売られている。こういう本が消えている状況も、きわめて遺憾な状況と言える。