ワクチン神話捏造の歴史
ロマン・ビストリアニク、スザンヌ・ハンフリーズ著、神瞳訳、坪内俊憲監修
ヒカルランド
社会に蔓延するワクチン神話は
歴史や証拠に基づくものではなかった
世間では、感染症を予防すると考えられているワクチンだが、本書では、あらゆるワクチンについて、病気予防の効果があまりないだけでなく、危険性が非常に高いことを訴える。本書の趣旨についてはそのほとんどが「著者によるまえがき」でまとめられていて、本文では、1800年代から1900年代初めの本・雑誌・新聞など(情報源が明確なもの)から引用文を列挙し、本書で展開される主張について裏付けを重ねていくという実証的なアプローチを取っている。
本書で使用される引用文献は膨大であり、本書の主張が決して良い加減なものでないことはすぐに察しが付く。こういった「エビデンス」を通じて、現在のワクチンに対する信用が実はほとんど(というかまったく)根拠のないものから生み出されてきたということがわかるのである。もちろん、医療関係者や研究者以外の一般市民は、専門性の高い事項については「その道の権威」の言うことを信じるしかないわけだが、実は「その道の権威」も、先代の「その道の権威」の言うことを受け売りしているだけで、真実について大してわかっていないということが、過去の記録からは窺われる。したがって、専門家は当然のことながら、それ以外の一般市民についても、特定の専門家のご託宣を無批判に受け入れるのではなく、批判的な目を向けなければならないということになる。僕自身は、コロナ騒ぎで医療関係者の無知を悟ったため、自分自身でしきりに文献をあさっているわけだが、本書の提供するデータは、膨大にして同時にきわめて貴重なものであって、一般市民がアクセスする上で大きな価値のあるアーカイブであると言える。
本書で主張されていることは、「恐ろしい感染症がワクチンのおかげで対処できるようになった」という見方に対する疑義であり、実のところ、多くの感染症はワクチン接種が始まる前にすでに激減しており、ワクチンが感染予防や重症化に果たした役割はきわめて少ないかまったくない。それどころか、ワクチンによって引き起こされた病気や障害、あるいは死亡事故がきわめて多いことから、総合的に考えるとワクチンには有用性がないとする見方である。この見方を補強するのが、先ほども述べたようなさまざまな文献の記事で、そこには非常に生々しい同時代的な記述が見出される。
このコーナーでもかつて母里啓子や近藤誠のワクチン関連の著書を紹介してきたが、彼らの著書でも、天然痘やポリオなどの一部のワクチンを除いて、ワクチンは効果がなく有害と書かれていた。ところが本書では、天然痘とポリオについても詳細な記事が紹介されており、それぞれのワクチンに効果がなく、それどころか深刻な被害をもたらしていたことが紹介されている。そしてワクチンが導入されていったのは多大に政治的な理由であって、ワクチンの効果を盲信する勢力によってなし崩し的に導入されてきたということも当時の記述から窺える。
特に、ワクチンの始まりである天然痘ワクチン(つまり種痘だが)についてはかなり詳細な記述があり、その実態は非常に衝撃的である。このワクチンは、19世紀に英国で導入され、その後英国全土に広まっていったが、それにもかかわらず天然痘はたびたび流行し、ワクチン接種が法令で強制されることになったりもしている。一方でそれにあわせてワクチン被害が拡大しただけでなく、むしろ天然痘流行の原因になっていると考える人々も現れた(つまり種痘〈生ワクチン〉を接種することで天然痘に感染していたということ)。こういう状況を背景として、反対の声が特に大きかったレスター市では、英国全土でワクチン接種が義務化されていたにもかかわらず、行政が接種を取りやめ、そのための予算で下水などの衛生施設を改善する方策を採ったところ(レスター方式)、天然痘の発生、そして天然痘による死者数が他の地域より著しく減少したのである。この「実証実験」の結果が、天然痘ワクチンの効果に対する疑問をさらに広げるきっかけになったという。ところが、この「レスター方式」については、その後、各地の行政府がワクチン接種政策を進めていく過程で、徐々に忘れ去られてしまった(おそらく記録から意図的に抹消されたということなんだろう)。そして天然痘の減少・消滅が、種痘によるものという信仰が定説化していったのだという。
また、ポリオについても大きく紙面が割かれている。元々、ポリオは診断基準が明確でなかったために、農薬や薬物によるものも含め、子どもの四肢障害がごとごとくポリオが原因であると片付けられてきた歴史があった。ところが、ワクチン接種が始まるときに診断基準が変えられたため、数字の上でワクチンによってポリオが減ったことになったなどという、驚きの事実が明かされる。またポリオについても、天然痘同様、ワクチン接種がポリオ蔓延の原因になったことが窺われる。そういった事実が、過去の新聞記事などによって裏付けられているため、信憑性が非常に高いのである。
このように、本書はワクチンの効用に疑問を投げかけるもので、同時にその有害性についても声を大にして訴えている。そしてその多くに、過去の記事や論文などの裏付けがあるため、大きな説得力がある。さらには、現代社会が「ワクチンが感染症に効果を持つ」という神託を無批判に受け入れているために、その結果として多くの悲劇が生み出されている状況が明らかにされる。
ワクチン信仰がひとり歩きしている現代社会で多くの人が本書のような主張に接することができれば、自身で考えるきっかけになるのではないかと感じる。同時に、「専門家」と呼ばれる人々にはその内容に対して反証を試みてもらいたいと思う。本書の主張と反証のどちらに説得力があるか、一般市民にその判断を仰ぐというのが筋で、それこそが学問的かつ実証的なアプローチになるのではないだろうか。
なお本書は、スピリチャル関連の本を大量に出している「ヒカルランド」という出版社が版元だが、翻訳本であるため原書(『Dissolving Illusions: Disease, Vaccines, and the Forgotten History』)もペーパーバックで発売されている。こちらのオリジナル版については「ヒカルランド」ほど怪しさがないため、元々の本はしっかりしたものではないかと思うが、本音を言えばしっかりした国内出版社が翻訳権をとって出版してほしかった(そして広範に宣伝してほしかった)本ではある。ただ、この「ヒカルランド」版、どういう理由かわからないが原書より安価であり、その点は評価に値する。ただし例によって誤植が多いという難点がある。翻訳はまずまずである。