カフェでカフィを

ヨコイエミ著
集英社クリエイティブ

名前は知らなかったが
期待を持たせる作家である

 カフェやコーヒーをモチーフにしたマンガの短編作品集。サッパリしたきれいな絵で、内容は非常に練られた、しかも感性的な味わいのある作品である。著者のヨコイエミって人、まったく知らなかったが、高野文子を彷彿させるような画風で、非凡な才能を感じさせる。

 まず最初の3本の話は、3本とも、あるカフェ(ヤマダカフェ)のある瞬間の風景を描くものであり、それぞれの話で主人公が異なっている。つまりある場に集まる人々をそれぞれ別の(その登場人物の)視点で見るという、なかなか意欲的な構成になっている。主人公の視点で語られるストーリーは一般的に多いが、この3本では一つの風景が別々の主人公の視点で語られることになり、世界が個人個人の集まりで構成されているということが意識させられる。

 この3本を含み、全部で話は19本あるんだが、全編を通じた一貫性というものはない。ただし、全編を通じた連続性はないが、離れた話同士に同じ登場人物が出てきたりして(トータルの連続性がないためか)それが意外性を与えるのである。このような構成が、あるところから話がどんどんよそに移っていくような印象を与えるため、ルイス・ブニュエル風のダイナミズムも感じさせる。こういった、工夫された構成には知性的な要素も感じさせ、一方でストーリー自体は先ほども言ったように感性的な要素が強く、知性と感性が両立したなかなか稀有なマンガと言って良い。しかもあちこちに伏線が張ってあって、後のストーリーにそのモチーフが出てきたりするのも意外性に拍車をかける。本作には続編もあるようだが、たびたび(ほんの少しだけ)登場する「父親にコーヒー豆を送る若者」のエピソードは、おそらくこれも伏線になっていて、続編にエピソードが出てくるんではないかと思う。

 キャラクターはどれも性格が描き分けされていて、絵もそれを反映したものになっていて、そういう点でも技術の高さを感じさせる。著者に関する情報はまったくないが、非常に期待が持てる作家であると感じた。

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