ビギナーズ・クラシックス 古事談
源顕兼著、倉本一宏編
角川ソフィア文庫
あえて読むほどの価値は感じられなかった

角川ソフィア文庫の『ビギナーズ・クラシックス』シリーズは、近年その対象を有名作品以外にも広げてきており、マニアックなラインアップも出てきているが、今回の『古事談』についてもそれが言える。『古事談』はほとんどの人が耳にしたことがないような古典作品で、僕自身も知らなかったが、歴史的な出来事に触れた物語を集めた鎌倉時代初期の説話集である。今回にわかに関心が湧いたことから読んでみた。
例によって、原典からいくつかの部分をピックアップして、その節ごとに訳文、原文(書き下し文と漢文)、解説の順に並べるという『ビギナーズ・クラシックス』の定型フォーマットに従った構成になっている。ピックアップされているのは全70話で、説話集であるため、それぞれの話ごとにストーリーが完結している。元々の『古事談』は、「王道后宮」、「臣節」、「僧行」、「勇士」、「神社仏寺」、「亭宅諸道」の6部構成になっており、それぞれに関連する話を各部ごとに集めている(たとえば天皇の事績は「王道后宮」に入っているなど)。そもそものネタ元は、『続日本紀』や『小右記』などの他の書物であることが現時点で判明しており、それを反映してか、漢文体の箇所とカタカナ書きの箇所が混ざっている(多くは漢文体)。そういう出典の中には説話集なども含まれ、しかもその話を適宜アレンジしていることから、必ずしも内容は歴史的事実を反映したものではない。結局のところ、噂話集のレベルでとどまっており、歴史的事実の再発見というような動機で読むようなものではないようだ。『宇治拾遺物語』などの説話集とも共通する話があり、結局のところは説話の域を出ないと言える。一方で説話集として考えれば、少し面白味に欠ける話が多いという印象である。
今回このダイジェスト版を読んでみた印象は、積極的に読むほどの価値はないというもので、やはり他の有名作品と比べると、物足りなく感じる。これを読むなら、同じ時代の作品でも『大鏡』などを読んでみる方が良いように思う。マイナーな作品には、それだけの価値しかないということをあらためて感じる結果になった。このあたりは『古本説話集』の場合と同じような印象であった。