蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇
芥川龍之介著
岩波文庫
短編の名手の名人芸を楽しむ
芥川龍之介の短編集。児童向け作品を集めたというコンセプトではあるが、必ずしも児童向けとは言えないような作品もある。
収録されている作品は『父』、『酒虫』、『西郷隆盛』、『首が落ちた話』、『蜘蛛の糸』、『犬と笛』、『妖婆』、『魔術』、『老いたる素戔鳴尊』、『杜子春』、『アグニの神』、『トロッコ』、『仙人』、『三つの宝』、『雛』、『猿蟹合戦』、『白』、『桃太郎』、『女仙』、『孔雀』の20編で、概ね芥川龍之介の中期の作品と言える。
『蜘蛛の糸』、『杜子春』、『トロッコ』は児童向け作品として有名で、小中学校の国語教科書にもたびたび採用されている。『魔術』も割合知られており、以前『まんがこども文庫』というテレビ番組でも紹介されたことがある(YouTubeにもその映像〈『まんがこども文庫#08 魔術』〉があるため興味のある方は見てください)。どの作品もストーリーに意外性がある上、最後にうまく収束させており、ストーリーテラー、芥川の面目躍如と言える。
ただ中には『妖婆』と『アグニの神』のように、中身が非常に似ている作品もある。さらに言えば、この2作、やや神秘的な話で、『邪宗門』とも少しばかり共通性を感じる。もしかしたら(未完の)『邪宗門』についても、著者はこの2作のような終わり方を考えていたのではないかなどとも思える。とは言え、この2作、どちらもミステリー風でしかもスリリングに展開するため、読みものとして大いに楽しめる。エンタテイメントとして秀逸である。
『犬と笛』、『老いたる素戔鳴尊』、『三つの宝』、『白』は童話めいていて、児童向けと考えることができるが、もちろん成人が読んでも十分楽しめる凝った話である。『猿蟹合戦』と『桃太郎』は、おとぎ話の題材を現代社会に当てはめたようなストーリーで、やや悪ノリが過ぎるという印象。
個人的には、特に『蜘蛛の糸』と『杜子春』が(今さらながらだが)非常によくできた話だと感じた。こういうものを読むと、やはり芥川は短編の名手であると感じる。
なお巻末の中村真一郎による「解説」は、まったく作品解説になっておらず、かなり物足りない。岩波文庫の「解説」とは思えないほどの質の低さである。