新美南吉童話集
新美南吉著
岩波文庫
ダイナミックなストーリー展開
漂う詩情、あふれ出る人情
「ごんぎつね」や「おじいさんのランプ」でお馴染みの童話作家、新美南吉の作品集。どれも「童話」という括りではあるが、短編集と考えても一向に差し支えはない。
僕は近年フィクションはあまり読まなくなったが、短編集は元々好きである。短編小説のダイナミックなストーリー展開と、収束に向かう一気の寄りが何とも言えない。特に新美南吉の作品は、かなり以前から好みで、かつて新潮文庫版を読んだことがある。そもそも小学校の教科書にも「ごんぎつね」が載っていたことだし、僕だけでなく多くの日本人に馴染みがあるのではないかと思う。
新美南吉作品の場合、ストーリー展開の面白さはもちろんだが、それに加えて人情の暖かさが漂っていて、それが大変心地良い。さらに日本の田舎の情景が巧みに再現されており、全編詩情に溢れているのも魅力である。さらに言うと、出てくる登場人物(特に周囲の人々)にややとぼけた味があるのも良い。そのため、どの作を読んでも、心地良さがいつまでも残る。
今回読んだのは岩波文庫版で、代表的な14本の童話作品と1本の評論(「童話における物語性の喪失」)、それに解説という構成になっている。14本の童話は「ごんぎつね」、「手袋を買いに」、「赤い蝋燭」、「最後の胡弓弾き」、「久助君の話」、「屁」、「うた時計」、「ごんごろ鐘」、「おじいさんのランプ」、「牛をつないだ椿の木」、「百姓の足、坊さんの足」、「和太郎さんと牛」、「花のき村と盗人たち」、「狐」で、すべて成立順に並んでいる。巻末に「初出一覧」があるためにそれがわかるんだが、「初出一覧」が付いているのもありがたい配慮である。ぼくが特に好きなのは「最後の胡弓弾き」、「屁」、「おじいさんのランプ」あたりだが、「ごんごろ鐘」や「和太郎さんと牛」に出てくるとぼけた登場人物にも非常に魅力を感じる。
また岩波文庫ならではであるが、挿絵を担当しているのが谷中安規と棟方志功というのも豪華である(表紙の絵は谷中安規作)。結果的に、主役である童話作品だけでなく、隅々まで目が行き届いた完成度の高い贅沢な本に仕上がっている。