地獄変・邪宗門・好色・藪の中 他七篇

芥川龍之介著
岩波文庫

近代日本文学の最高傑作の1つ

 こちらも芥川龍之介の初期短編集。『羅生門・鼻・芋粥・偸盗』と同様、説話文学に材を取った、芥川龍之介のいわゆる王朝物ばかりを集めた短編集である。芥川の王朝物は全部で15篇あり、岩波文庫ではそのうちの4篇が『羅生門・鼻・芋粥・偸盗』、残りの11篇が本書に収められている。したがってこの2冊で王朝物コンプリートということになる。

 こちらに収められているのは『運』、『道祖問答』、『袈裟と盛遠』、『地獄変』、『邪宗門』、『竜』、『往生絵巻』、『好色』、『藪の中』、『六の宮の姫君』、『二人小町』で、ほとんどが説話文学に原作または題材がある(らしい)。『邪宗門』はほぼオリジナルのようで、スペクタクルに溢れた意欲作ではあるが、かなり盛り上がった場面で、何と突然終わってしまう。要は未完の作で、それについては最後に芥川自身が「作者の貧」、「作者の疎懶」などと弁明している。しかし『地獄変』の続編という位置付けで書かれた作で、しかもキャラクターが非常に魅力的に描かれているため、途中で終わってしまうのは非常に惜しい気もする。とは言え、これだけ大きくした話をどうやって収拾するのかと途中で疑問を持ったのは確かで、(一部で言われているように)収まりがつかなかったという言説もにわかに否定しがたいと思う。

 『運』、『道祖問答』、『往生絵巻』、『二人小町』、『六の宮の姫君』はどれも小品で、説話のストーリーをそのまま現代風にしたという作品で(他の作に比べると)やや物足りなさを感じるが、『地獄変』、『邪宗門』、『竜』、『好色』、『藪の中』はどれも一級品で、芥川の才能を感じさせる。このうち『地獄変』と『藪の中』は原作の面白さゆえか映画化されており(豊田四郎監督『地獄変』、黒澤明監督『羅生門』)、『袈裟と盛遠』についても部分的に映画化されている(衣笠貞之助監督『地獄門』)。だがやはり、芥川の文体の巧みさや、細かい心情表現などを鑑みれば、どれも原作で読む方が良いと思う。それくらい、この短編集の作品群は珠玉の名作揃いと言うことができる。執筆当時20代だった若者の作品とは思えないほどの熟練である。

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