ビギナーズ・クラシックス 権記
藤原行成著、倉本一宏編
角川ソフィア文庫
歴史上の出来事を当事者の視点で見る
以前、藤原道長の『御堂関白記』に触れたため、今度は、同時代を生きた藤原行成の日記である『権記』にも触れることにした。ということで、『ビギナーズ・クラシックス』シリーズの『権記』を読んだわけ。元々は『権記』がこのシリーズに入っているという事実を知ったことがそもそものきっかけである。
『権記』は、一般的にあまり馴染みのない書であるが、権大納言を務めた藤原行成の日記で、『権記』の「権」は権大納言から採られたものである。藤原行成は、書の名手として今に名前が伝わっているが、平安中期の公卿(上級貴族)であり、藤原道長と同時代に生きている。権大納言まで務めた人であるため、政治の中枢におり、しかも一条天皇の時代に蔵人頭(天皇の秘書みたいな役職)を務めていたことから、一条天皇とも非常に近い間柄である。一方で藤原道長が台頭してくる時代でもあり、行成は道長とも近い関係をとる。同時代の『小右記』(藤原実資の日記)などでは「道長の腰巾着」みたいな扱いで書かれており、道長閥の一人であることが知られている。先日読んだ『ビギナーズ・クラシックス 御堂関白記』でも、行成は道長の追従公卿みたいな扱いで紹介されていた。
そうは言っても、本人の日記に触れれば、幼い頃に親が死に、頼るべき後ろ盾がなくなってしまったため、貴族として生き残るために大変な苦労を強いられていたことが窺われる。それに若い頃は、むしろ自分を主張しすぎて周囲と軋轢を起こすようなところもあり、「道長の腰巾着」というイメージですべてを捉えることは必ずしも正しくない……とこの本に触れて感じる。正確に捉えるならば「道長と利害を共有する者」という見方が正しいんじゃないかと思う。ただそれがために(行成を頼りにしている)一条天皇より道長の意向を優先するなどということも行っている。
本の体裁は他の『ビギナーズ・クラシックス』シリーズと共通で、まず原著の一部を抜萃し、現代語訳、原文の読み下し文、原文の漢文、解説という並びで構成されている。貴族の日記であるので原著は漢文の白文で、しかも儀式などの記録が中心であるため、あまり面白味はない。それでも一条天皇から三条天皇の時代に起こった出来事が、行成の視点で記録されているため、そういう部分のミクロ的な面白味はある。道長の『御堂関白記』や実資の『小右記』とも視点が異なっており、その辺が読みどころではないかと思う。『御堂関白記』とも共通しているが、基本が記録であるため、古文(漢文)の原文で読む必然性はあまりなく、したがって他の『ビギナーズ・クラシックス』シリーズで感じるような「原文を先に掲載してほしい」と感じることはあまりなかった。原文はあくまで参考程度の位置付けになる。どうしても史料としての価値というところに落ち着く。
貴族の日記がどういうものかよくわかるが、さすがにもうこれ以上は読まなくても良いかなと思う。『小右記』もこのシリーズから出ているが、今のところあまり食指が動かない。