トキワ荘青春日記
いつも隣に仲間がいた…
藤子不二雄Ⓐ著
光文社
『まんが道』資料編…
藤子不二雄Ⓐこと安孫子素雄が、トキワ荘時代に書いていた日記をまとめたもの。収録されている日記は昭和29年(安孫子20歳)から昭和35年(同26歳)までのもので、上京してからトキワ荘に入居し、連載を10本持つ頃までが対象になっている。見えない将来に不安を抱えながら、仲間たちとワイワイ青春時代を送る日々が描かれている。初期の頃(昭和30年初頭)藤子不二雄がことごとく連載を落とした(後に干される原因になった)事件もかなり詳細に書かれている。内容は同じ著者のマンガ作品『まんが道』と重なるため特に目新しさは感じないし、元々が日記だから大して面白味もないが、強いて言えば資料的な価値があるというところ。マンガ以外の要素、たとえばみんなしてスキーに行ったり、野球をやったりという「遊び」の部分も出てきて、等身大のリアルな側面も出てくる。そういうのは日記ならではという部分。干された後しばらくは毎日ゴロゴロしていて、そんな自分に自己嫌悪を感じたりするのも日記ならではかも知れない。
後にマンガ家として大成する人が多数出てくるが、誰もが将来への不安を抱えているのが興味深い。赤塚不二夫が著者に「将来のこと自信ありますか? 漫画家としてやっていく自信…」と訊いて「いや、自信なんかないよ。でも、もう富山へも戻れないし、このままやるしかしかたないもの」と答えるというくだりがあるが、今思うとすごいシーンだ。もっともこのときの仲間の中には、マンガ家として成功しなかった人もいるわけで、確かにどっちに転ぶかわからないぎりぎりのところにいたと言えるかも知れない。
なお登場するマンガ家は、本人、赤塚不二夫の他、藤本弘(藤子・F・不二雄)、手塚治虫、寺田ヒロオ、石森章太郎、よこたとくお、つのだじろう、森安なおや、永田竹丸、鈴木伸一(マンガ家ではなくアニメーターになったが)ら。