トキワ荘の時代

梶井純著
ちくま文庫

寺田ヒロオの評伝……
にしてほしかった、どうせなら

 マンガ評論家による寺田ヒロオ論。1993年に刊行された本で、寺田ヒロオが92年に死去していることから、その関連で出版されたのだろうか。いずれにしても寺田ヒロオに間する本は珍しい。

 タイトルは「トキワ荘の時代」ということになっているが、トキワ荘時代に特化したものではない。寺田ヒロオの評伝と言えなくもないが、全体にわたり著者が頻繁に登場して、評伝に収まっていない。著者が「評論家」であるためかしつこく自己主張し、そういう点で少し辟易する。著者の野球への思い入れなんかホントどうでも良いのだ、こっちにしてみれば。マンガ評論はしなくて良いから、あくまで「評伝」としてもっとシンプルで、研ぎ澄まされたものにしてほしかったと思う。

 ただ、トキワ荘グループの中でも寺田ヒロオに特化した書籍はあまりないし、寺田ヒロオの人となりやトキワ荘グループとの関係性などをこれだけ詳細に書いたものはないので、本としての有用性は高い。また、つげ義春から見た寺田ヒロオ像や棚下たなか照生てるおとの関係などが紹介されているのも珍しい。棚下照生という人、僕は全然知らなかったが、トキワ荘関連の書物に名前だけ登場することが多く、この本でどういう人であるかがよくわかった。映画『トキワ荘の青春』にも、寺田の個人的な(シニカルな)友人として登場するが、「棚下」という名前が映画に出てくることはなかったように思う。ちなみにあの映画ではこの本も参考文献として使用されているため、この辺の情報が利用されたものと思われる。また、つげ義春と赤塚不二夫が親しかったというエピソードも映画に出てくるが、この本がネタ元と考えられる。

 寺田ヒロオの実像に迫っている点は十分評価に値するし、トキワ荘グループ周辺と貸本屋マンガ家との関係性なんかもわかって、戦後マンガ史の一断片が映し出されている点も評価できる。『白土三平伝 カムイ伝の真実』長井勝一の『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史』水木しげるの『コミック昭和史』などと併読すると、戦後マンガ史のかなりの部分を把握できるのではないかと思う。

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