日本その日その日

エドワード・S・モース著、石川欣一訳
講談社学術文庫

江戸情緒が残る明治日本の魅力的な姿

 大森貝塚を発見したことで名高いエドワード・モースの日本滞在記。

 明治10年(1877年)に貝(腕足類)を収集するために日本にやって来たモース氏、その後、東京大学に教授として迎えられることになり、結局都合2年以上、日本に滞在することになる(その間、何度か帰国している)。元々日本に関心があったようで、来日したのもそういう要素が大きかったわけだが、そのためもあり、滞在時もあちこちの名所を訪ね歩いている。当初敬遠していた人力車(人に車を引かせるという行為が虐待のように思えたらしい)もその後、車夫たちの矜持に接してから大のお気に入りになり、旅行時に頻繁に活用している。

 本書では、その滞在時の記録が、あるいはエッセイ風、あるいは日記風に記述されている。原著は、モースの晩年に出版された『JAPAN DAY BY DAY』で、モースが死去した直後に日本でもその本が翻訳されて出版された。本書はその際に日本国内で発刊された翻訳版であり、したがって約100年前の翻訳ということになる。そういう事情であるため、文章や表現がやや古く(「加之しかのみならず」などという表現もよく出てくる)、また記述がわかりにくい箇所も多い。翻訳レベルで見ると、あまり良いデキとは言えず、新しい翻訳版を望みたいところである。

 ただ内容自体はなかなかユニークで面白く、モースが日本の風俗や産物に興味津々であったことが窺われる。そのため、江戸情緒が残る当時の建築物や生活、文化が、よそ者としての視点で詳細に活写されており、現代の我々が読んでも新鮮に映る箇所が多い。さらにはモース自身が自筆のスケッチをかなり残しており、そのスケッチが本文とあわせて随時紹介されている点もポイントが高い。記述には日本の風俗に対する尊重の姿勢が窺われるため、読んでいて不快になることもない。それどころか、紹介されていることごとくが魅力的に描かれていることから、かえってそれぞれの事物に大いに関心が湧く。

 モースは、日本の事物に対してこのように高い関心を持っていたこともあり、帰国時、日本の工芸品や民芸品、それから写真や美術品などを多数本国に持ち帰っており、それが現在、ボストン美術館やピーボディー博物館に収容されている。こういった施設が米国での日本研究の拠点になったとも言えるわけで、その点でもモースの功績は大きい(もちろん大森貝塚発掘の業績も大きいが)。

 外国人が見た(江戸情緒が残る)明治日本の姿を描き出したという点では、エミール・ギメラフカディオ・ハーンの著書と共通するが、当時の日本人の生活様式の内部まで細かく探っているという点でモースの著書は優れている。それぞれの著者で関心の方向性が違うというのもまた面白いもので、いろいろな人々の異なる視点から多元的に当時の日本の姿が窺えるのもなかなか良いものである。

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