ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 老子・莊子
野村茂夫著
角川ソフィア文庫
よくできた「老荘」入門書
これも『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』シリーズで、なんと『老子』と『莊子』の2書を1冊にまとめるという大胆不敵な企画である。このシリーズ、『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 史記』のときもそうだったが、原文が漢文であり、それぞれの項ごとに白文、書き下し文、訳文、解説文が並べられているため、誌面を結構消費する。前にも書いたが『史記』の場合もわずか3つのエピソードを、しかもごく一部取り上げるだけで1冊終わってしまっている。それなのに、2種類の書をまとめて取り上げるとは、まさに「大胆不敵」!
いずれにしろ、2種類の書を取り上げたこの本もやはり、『史記』同様スーパーダイジェストにならざるを得ない。とは言え『老子』については、元々がすべてをあわせても五千数百字の書で、1章当たり百文字程度の章が全部で81章と、比較的短い。本書では、『老子』についてはほぼ半分の38章が取り上げられているため、『ビギナーズ・クラシックス』シリーズとしては上出来の部類に入る。実際この本でも『老子』の章の方が『荘子』の章より長いと来ている。その辺を勘案すると『老子』重視と言えるわけだ。もっともそれなら別々にして『老子』を全部取り上げたら良さそうなものだが、やはり『荘子』も捨てがたかったということなのだろう。実際、『老子』と『荘子』は世間では道家あるいは老荘思想としてひとまとめで語られることが多いため、それも頷けるし、本書の中でも両者に繋がりを感じさせる部分は多い。本の完成度より、あくまで入門書を目指すという趣向であれば、それについてこちらがどうこう言える筋のものでもあるまい。
このように『老子』についてはある程度の分量を確保できているが、一方の『荘子』は、元が大著であるため、かなりのダイジェストになっている。『荘子』は元々「内編」7編、「外編」15編、「雑編」11編に別れており(そのうち莊子のオリジナルと言える部分は内編のみで、後は後代が追加したものとされている)、本書ではそのうちのごく一部が取り上げられている。ごく一部ではあるが、莊子の特徴、面白さみたいなものは割合良く表現されているため、物足りなさは『ビギナーズ・クラシックス 史記』ほどではない。『老子』と『荘子』にかなり興味を引かれるのは事実である。実際、取り上げられた箇所やその解説は魅力的である。入門書としては、必要十分とはなかなか言いづらいが、「必要」なところはしっかり抑えられているという印象で、そういう意味で優れた入門書だと言える。
かつて『マンガ 老荘の思想』という本を買って読んでみたが、あれはどうしようもない代物で、腹立ち紛れにすぐに捨てたほどである。あのマンガ版のことに思いを馳せると、老荘の入門書を作ること自体がかなり難しいということがわかるが、本書についてはそのあたりはうまく処理できているように感じる。少なくとも僕はかなり興味をもったため、本書を読んだ後、全編が載っている『老子』を買ったのだった。これこそが正しいアプローチではないか。