徒然草―マンガ日本の古典 (17)
バロン吉元著
中公文庫
『徒然草』全243段を忠実に再現!
これも中央公論社の『マンガ日本の古典』シリーズの一冊で、原作は『徒然草』。『徒然草』は若い頃からわりに興味があって文庫本も買っていたが、なかなか古文を読もうという気にならず、長い間本棚の中で埃をかぶっていた。このシリーズに『徒然草』があるのは知っていたが、表紙の顔(吉田兼好)が少々気持ち悪いので手を出さずにいた。だが、最近このシリーズのマンガをまとめて数冊買ったこともあって、いよいよ『徒然草』にアプローチするときが来たと言うわけ。
で、ページを繰ってみると、なんと『徒然草』の全243段がマンガ化されている。僕はてっきり、面白い箇所だけをピックアップして、いわばダイジェスト風にまとめたものかと思っていたが、とりあえずすべての段を網羅している。読んでいくと「後醍醐天皇が嫌い」などという記述があって、こんなのが『徒然草』にあったかしらんと思って原典に当たってみたが、さすがにこういう記述はない(天皇が嫌いなんて現代ならいざ知らず、鎌倉、室町期に書かれているとは思えないし)。この辺は著者、バロン吉元の解釈らしい。だが全体的に原作の記述がかなり忠実に再現されていることがわかる。そこら辺を確かめるために、途中から古典版の『徒然草』も併読しながらこの本を読むようになった。おかげで読むのにかなり時間がかかったが、『徒然草』もほとんど完読できたというおまけが付いた。
『徒然草』は段によっては2、3行程度で終わっているものもあるが、そういうところはマンガでも1コマあるいは2コマで終わるという念の入れよう(というかそのままだが)で、おかげでまったく面白味が感じられない箇所もある。が、それも原作を忠実に翻案しているせいであって、原作自体、何が面白いのかわからない箇所が割にあり、ただのメモみたいな部分も結構ある。だから、古典の翻案という意味では非常によくできていると言える。そもそも随筆をマンガ化するということ自体無謀と言えば無謀である。その辺を考え合わせると相当な意欲作とも言え、絵も非常に丁寧に描かれている。第152段から154段に登場する日野資朝は強烈なキャラクターだが、マンガでは薄気味悪く描かれていて、こちらも強烈。内容に沿ってキャラクター設定をしているあたりもなかなか筆力を感じさせる。
作者のバロン吉元と言えば、昔、少年サンデー(だったか)に連載されていた『黒い鷲』(飛行機で凱旋門をくぐることを目指すというようなストーリー)の印象くらいしかないが、『黒い鷲』を読んだときに感じた以上の技量を今回感じた。この『マンガ日本の古典』シリーズの質の高さをあらためて感じた一冊だった。