総員玉砕せよ!
水木しげる著
講談社文庫
日本の戦記文学の金字塔
水木しげるの戦記ものの代表作。ラバウル戦での実体験がかなり盛り込まれているので、リアリティがある。というより、逆にこれがリアルな戦争なのかと納得する。実体験は盛り込まれているが、すべてが自伝的というわけではなく、一部フィクションになっている(著者によれば「90%は事実」)が、戦友に対する鎮魂という要素が作者にあったのだろうか、展開が一部わかりにくくなっている。悪くいえば「独りよがり」の部分が見受けられる。そのあたりが、人に読ませるためというよりも自分のために描いたんだろうかと推察される由縁である。また、一部、登場人物が区別しにくい箇所もあった。とは言え、文章ではなく絵で見せることで臨場感をもたらしており、これは文字ではできない芸当である。そういう意味でも、日本の戦記文学(マンガを文学というカテゴリーに含めた場合)の金字塔であるのは確かで、実体験を芸術に昇華できた稀有な作品の一つと言うことができる。
かつてNHKで放送されたドラマ、『鬼太郎が見た玉砕』(現在YouTubeなどでも見られるようだ)は、本書の忠実なドラマ化になっており、内容はほとんど同じである。役者が登場人物を演じているため、マンガでは区別しにくかった登場人物の違いはよくわかった。また本書のあとがき(著者によるもの)や解説もドラマには盛り込まれており、その点でもよくできていたと思う。
ともかく、戦場の理不尽さと(日本)軍の愚かさがよく伝わってくる快作であった。表紙の絵もヨイ。
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