落窪物語―マンガ日本の古典(2)
花村えい子著
中公文庫
「やられたら10倍返しだ」
by 右近の少将
『落窪物語』までマンガ化しちゃったのというような、ある意味、このシリーズきっての異色作。『落窪物語』は『源氏物語』や『枕草子』に比べてネームバリューがないため世間ではあまり知られていないが、ストーリーがよくできた古典文学作品である。
美しい姫君(落窪の君)が継母に虐げられ侮辱されいじめられるが、やがて身分も高く麗しい容姿の男(右近の少将)が、彼女を愛しそして不幸な境遇から救い出すという話。しかもその後、この男、継母たちに手痛いしっぺ返しをこれでもかというほど喰らわせる。まさに「10倍返し」で、読者の鬱憤をさんざっぱら晴らしてくれる。
ストーリーの骨子は比較的単純な復讐譚であり、よく似た話は(『シンデレラ』を取り上げるまでもなく)洋の東西を問わずあちこちにある。今でも小説やドラマで頻繁に同じようなストーリーが使われるほどだが、この『落窪物語』が10世紀末に書かれたことを考えると驚きで、ある意味、元祖と言っても過言ではないかも知れない(おそらく中国にこの話のネタ元があってそれが世界中に拡散したんじゃないかと容易に想像できるが)。
さて本作では、この『落窪物語』を花村えい子という作家がマンガ化しているが、絵が非常に優美で、実に良い雰囲気を作り出している。そもそもが少女マンガ的なストーリーなんで、この作家の少女マンガ的な絵は非常に合っている。原作の隅から隅までマンガにしたわけではないようだが、全体的にうまくまとめられていて、まったく過不足ないという印象である。何より、時代背景、習慣、衣装、建築物などが丁寧かつ美しく描かれていて、当時の風俗が実に見事に再現できているところが特筆ものである。あの時代に迷い込んだかのような錯覚すら覚えるほどだ。そういう意味でも、非常に質の高い翻案マンガと言える。