マンガ古典文学 源氏物語 (上)、(中)
花村えい子著
小学館
『源氏』を華麗に再現したが
これも登場人物が区別できない
先日紹介した『方丈記』と同じ『マンガ古典文学』シリーズの2冊。著者は、中央公論社の「マンガ日本の古典」シリーズで『落窪物語』を描いていた花村えい子である。
この花村版『源氏』であるが、長谷川法世が描いた中央公論社の「マンガ日本の古典」シリーズの『源氏』と好対照で、表紙を見ていただくとわかるように非常に少女マンガ風な麗しい絵柄である。光源氏もとっても美しく描かれていて、話の展開の中でも、女房たちの間でアイドル並みの人気を持つ。長谷川版『源氏』が、絵巻物的な構図を多用していたのと対照的に、花村版の構図は非常に映画的で、俯瞰ありクローズアップありで良く工夫されている。物語としての面白さが存分に発揮されている上、時代考証もしっかりしていて、安心して見られる華麗な『源氏』である。
最大の難点は登場人物の描き分けがあまり行われていない点で、ただでさえ源氏の愛人が大勢出てくるのに、どの女性もほとんど同じ顔でまったく区別できない(さすがに末摘花は違うが)。そのため、途中のページをいきなり開いても、源氏が誰と関係しているのかにわかにわからない。さらに源氏と(その友人の)頭中将も(描き分けはされているが)よく似ていて紛らわしい。(源氏の息子の)夕霧なんかもいずれは源氏と区別できない顔になるんじゃないかと想像される。登場人物が多い『源氏物語』であることを考えると、ちょっとこれは大きな失点である。また、全3巻と比較的短いためもあるんだろうが、あまりにダイジェスト的でコマとコマの繋がりが怪しい部分もある。そういう部分も残念な点である。全体的によくできた作品であるだけにこういった点が非常に惜しい。
このマンガを読みながら時折長谷川版『源氏』も参照したが、どちらもストーリー展開は非常に似ており、原典を忠実に再現したことが窺われる。そういう意味でも、『源氏物語』の翻案としてはどちらも非常に優れた作品と言えるのではないかと思う。