ケンとカンともうひとり
松下竜一 その仕事27
松下竜一著
河出書房新社
童話作家としての松下竜一
松下竜一の子ども向けの小説で、自身の家族、子どもたちをモデルにしたもの。自然に親しむ優しさにあふれた家族が子どもの視点から描かれており、自分の子ども時代を懐かしく思い出した。子どもたちを見つめる作者の目も慈しみに満ちていて優しい。
文章にちりばめられた情景描写が非常に美しく、まさに珠玉のような名編である。なお、タイトルの「ケンとカンともうひとり」のケン、カンは松下竜一の実際の子どもの名前、もうひとりはその下の子どもで、杏子という名前。3人合わせて、カン、キョウ、ケンで「環境権」になるという。
童話作家としてもそのポテンシャルを示した松下竜一会心の著である。
追記:
松下竜一の著作は、多くが絶版になっていたが、1999年から『松下竜一 その仕事』(河出書房新社)という選集シリーズでまとめて刊行された。僕は90年代から松下竜一著の古本をせっせと集めていたが、それでも本書はなかなか入手できない状態だった。結局『松下竜一 その仕事』が出たおかげで読むことができたわけだが、20年経った今では『その仕事』自体も品切れ状態になっている。著書の中には、文庫で復刊されるようなものもちらほら出てきているが、その著作の多くは埋もれてしまったままである。だがその多くが、埋もれさせてしまうのはもったいない秀作であることをここで強調しておきたいと思う。もっとも僕自身も古本を入手してそのままになっているという著作が結構あるので、あまり大きなことは言えない。いずれまたまとめて読んでみようとあらためて決意している。
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