仕掛けてびっくり 反核パビリオン繁盛記
松下竜一著
朝日新聞社
市民の市民による市民のためのイベント
1985年に大分県中津市で開催された「'86豊のくにテクノピア」に、市民団体が結集して反核パビリオン、非核平和館を出し、大変な反響を呼んだ。その顛末記がこの本。
この「'86豊のくにテクノピア」自体、そもそもドロナワ式でいい加減に計画された博覧会だったが(当時、こういう馬鹿げた博覧会が全国で企画されていた)、通常であればこういう企画に反対の立場を取るような人間が集まって、逆にこれを利用して反核の催しをやろうじゃないかという話になった。その中心人物の一人、松下竜一が、『草の根通信』(市民運動関係者および賛同者向けの機関誌)で、その経過を毎月リアルタイムに報告したものを集めたものが本書である。
同時進行であるためか臨場感が伝わってくる上、こういう催しにつきものの「お祭り」感までがひしひしと伝わってくる。いろいろな問題が出てはそれを市民の頭と手で解決していく姿は非常に爽快である。記述もさらりとして簡潔な表現であるため、とても読みやすく、本当に自分が現場で立ち会っているかのような感じ、まさに疑似体験になる。やはりこのあたりは書き手の力量によるんではないかと思う。
結果的に、「テクノピア」がおざなりで貧相なもので終わったのに対し、「非核平和館」の方は非常に評判が良く、よくこれだけのものができましたねといろいろな人に言われたらしい。もちろん、わずか半年でこれを実現するに当たり相当な苦労もあったんだろうが、そういうものをすべてひっくるめて楽しんでいたということがよくわかる。何かを大勢で作り上げる喜びや感動がよく伝わってきた。
少しもったいないのは、地味な装丁と読みづらさを感じさせるレイアウトである。何かのパンフレットみたいな装丁で、中を開いてみると行間が狭く字面が堅いレイアウトが出てくる。普通であればとても読む気にならない。それに写真も見づらく、第一印象は良くない。内容がすばらしいだけに非常に惜しいところである。