明神の小さな海岸にて
松下竜一著
教養文庫
『暗闇の思想を』——その後
『暗闇の思想を』の続編で、『暗闇の思想を』で展開された豊前火力発電所建設反対闘争の続きを描いたもの。
『暗闇の思想を』の後、九州電力と行政はついに発電所建設を強制着工することになる。それに対し、反対派は座り込みなどの手段で対抗する。その過程で、3人の仲間が逮捕され、1カ月以上も拘留されることになる。強制着工に対し抗議行動を続けながらも、着々と進められる埋め立て作業はどうすることもできない。その間、自分たちの運動について自問自答を繰り返す。逡巡を繰り返しながらも確固たる意志を確立する。かれらの行動は爽快ではあるが、破壊されていく環境と同様、どこか痛ましい感じもする。とは言え、かれらがこのときに示した行動とその哲学は、地球温暖化に直面する現在のわれわれにあらためて強烈なメッセージを投げかけてくるものである。
以下、本書より引用。
私たちが豊前火力阻止闘争の中で訴え続けてきた<暗闇の思想>は、そのいささか大げさな意匠をとり払えば、要するに限りなく貪欲な物質文明の抑制を説いているに過ぎない。このまま発電所増設を認め続けるならば、物質生産は限りなく、それは必然として資源を喰いつぶし自然環境を浄化不能なまでに破壊し人間性を脆弱にし、ついには自滅への道をころがっていくだろうことは眼にみえている。
ここらで踏みとどまって、発電所のこれ以上の新増設を停止し、今ある電力で可能な程度の生活を築こうと、私たちは主張し続けてきた。否、今ある電力をもっと抑制しても可能な生活に戻ろうといい続けてきたのだ。誘惑されやすい私たちの欲望につけこんで次々と買い込まされてきた製品を、そのような眼で点検するとき、多くの物は過程から追放されることになろう。そしてそれは当然生産拡大をも抑制せしめることになろうし、私たちの過程の電力需要をも抑制するだろう。(追放される物の中に、多くの電化製品が含まれていようから)