さらば国分寺書店のオババ
椎名誠著
新潮文庫
過去の一部になってしまったようだ
椎名誠のデビュー作のスーパーエッセイ。数十年ぶりに読んでみた。再読したのは、先日ラジオドラマ版を聴いたのが直接的なきっかけである。
世間のあれやこれやに対して不満をぶつけたり怒ったりという内容で、それを話し言葉に非常に近い文章(昭和軽薄体と呼ばれたもの)で書き綴っていく。文章はきわめて独特で躍動しており、それ自体は面白いんだが、内容がかなり攻撃的で、日常の鬱憤晴らしみたいな要素が強い。こういう話は居酒屋などで聞いている分には良いが、こうして活字で読ませられると、あまり楽しい気分にはならない。たとえば第3章のタイトルが「死ね! そこいら中の制服関係の皆様」となっていたりして、今だとこの「死ね」という言葉のインパクトが強すぎて、むしろイヤーな気分になってしまう。こういう「むしろイヤーな気分になる」箇所が割合多く、そういう点では今の時代に読んでみるとあまり感心しない部分が多い。
タイトルの「さらば国分寺書店のオババ」からは、国分寺書店の店主関連の話が出てくるのかと思ってしまうが、国分寺書店の話はわずかであり、他は警察官、国鉄職員、マスコミ関係者に対する日常的な不満の鬱憤晴らしに終始している。ラジオドラマでは、国分寺書店関連の話が中心になっていたため今聴いてもそれなりに楽しめたが、その他の事項については、今の時代にそぐわないものも多く(そもそも国鉄自体がなくなっているし)、読んでいて食傷気味になる。流行したものの多くについて共通することだが、この本についてもすでに、今となっては過去の一部になってしまったと感じる。昭和軽薄体自体は、今読んでもなかなか面白いと感じるが。