史上最悪の英語政策
ウソだらけの「4技能」看板

阿部公彦著
ひつじ書房

おかしな物事に対する批判が痛快

 教育行政、特に大学入試についていろいろいじくり回すのが先の政権。しかもろくでもない「改革」ばかりで現場に混乱ばかり巻き起こしている。結局彼らが目指しているのが、入試の民営化、そしてその結果としてのお友達への利益供与である……ということがわかれば、もう少し物事がよく見えてくるような気がする。

 さて本書では、これまで推進されてきた英語教育改革、読む、書く、聞く、話すの「4技能」推進について、存分に検討した上で批判を加えていく。

 そもそもなぜ「4技能」推進が始まったかというと、「日本では中高6年間英語を勉強しているにもかかわらず、ほとんどの人々が英会話もできないが、これは由々しきことであり、それは学校の授業が「読む・書く」の能力に偏重してきたせいだ……」というような批判が論拠になっている。これは確かにもっともらしく聞こえるが、冷静に考えれば、他の授業科目を見ても、大体似たような状況ではないかということがわかる。ほとんどの人は、6年間、数学などの科目を勉強してきているが、微分や積分は言うまでもなく、方程式でさえ、日常的に使える人はそれほど多いわけではない。だが、それについて疑問を持たれることはあまりない。実際のところ、6年間学校で英語を勉強したといっても、時間数にしてみればたかだか知れているため、学校で時間を消化しただけでマスターできると考えるのがおこがましい……というような議論が、本書では展開される。著者は、むしろ、限られた授業数しかない現状で、文法や読解に充てるべき時間を(「4技能」推進派が主張するように)英会話に充ててしまうと、英語の教育レベルがますます下がっていくのではないかと危惧する。

 このあたりの議論は実に正鵠せいこくを射たもので、行政と結託してこの「4技能」を推進する安河内哲也と松本茂(どちらも英語教育に携わってきている人)に対しても、著者は痛烈な批判を浴びせている。ただ、文章表現が柔らかくユーモアを交えながらであるため、実際はかなり辛辣な批判ではあるが、読んでいてそれほど不快に感じることはない。

 僕の個人的な考え方から行くと、英語に限らず、書くこと、読むことの方が聞くことや話すことより難しいため、英語は書く、読むを中心に勉強していくのが筋だと考える。英語でいえば、読解と英作文の練習を繰り返して基礎学力をつけておけば、会話や聴き取りは意外にすんなりできるようになると思う。これは自身の経験に基づく実感である。生徒たちに読解と作文を勧めているのはそのためで、それだから本書の著者の意見にはほぼ全面的に賛成で、結果ありきの「改革」推進派には、僕自身も憤りを感じているところである。特に昨今の文科省の政策はひどい愚策ばかりという印象を持っていたため、著者の分析には大いに納得するところがあった。ちなみに、著者は英語の研究者である。

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