AIとカラー化した写真でよみがえる 戦前・戦争

庭田杏珠、渡邉英徳著
光文社新書

カラー化技術で時代を身近に感じる

 昨今、映像のカラー化がさかんで、テレビ放送で目にする機会も増えている。過去のモノクロ映像のカラー化は、過去のある時点を現在からの続きとして感じる上で大きな役割を果たすため、どの仕事も文化財クラスと言って良いほど非常に貴重なものになる。一方で写真のカラー化は、それほど注目を集めることはなかったようだ。一つには、従来から手彩色などの方法でカラー化が試みられてきたことが要因としてあるが、やはり映像のカラー化と比べるとはるかに容易であるため、希少価値がなかったのだろうと思う。その上、従来の方法だと、質がもう一つでどうしても古色が残り、リアルさに欠けるという欠点があった。ただ、時代が変わりAIを利用できるようになると、写真のカラー化が一層簡単で身近になり、しかもその修正技術も高度になってきた。そのため、カラー化された写真もこれまで以上にリアルに再現できるようになり、「地続き」の時代を感じる素材として有用になった……というのが本書の製作の背景になった事情である。

 本書は、戦前から戦中期に撮影されたさまざまなモノクロ写真を、AIを活用しながら色付けした疑似カラー写真を集めた写真集である。先ほども紹介したように、単純な色付けはAIで行い、その後、史料や撮影当時に生きていた人々の証言などを参考にして、正確な色彩で再現したという写真ばかりである。そのため、どの写真についてもリアルな質感がある。AIで着色したという写真と、その後さらに人の力を駆使して修正したという写真が並べて紹介されている節があるが、それを見ると、AIだけの写真に見られる不自然な印象が、人の手によって一掃されていることがわかる。こういった見せ方により、紹介されているカラー化作品の質の高さが窺えるため、このような比較の方法はうまいプレゼンテーション方法と言える。

 戦前の写真は日本国内で撮影された写真が多いが、戦中の写真は米国側、とくに米軍が撮影した写真が多い。戦場の写真はほぼ米軍側からの写真で、空襲時の空撮写真も多い。空撮写真であるため、空襲の生の臨場感はなく、ゲームの画像みたいなものに映る。一方国内で撮られたという空襲後の写真は、焼け野原ばかりで、こちらもあまり臨場感はない。空襲で逃げ惑っているときに写真を撮るなどということは考えられないため、もちろんこれは致し方ないところだ。だが、この彼我の差こそが、攻撃する側とされる側の戦争を示していると考えることもできる。やはり本当ならば、攻撃を受ける側の生々しい画像が欲しいところである。そういう意味でも、大日本帝国海軍の特攻を受けた米国艦船の写真(艦船上から撮影したもの)は恐ろしく臨場感に溢れている。そういう意味で、このような写真が特に魅力的に映る。

 オリジナルの写真の質については、米国の写真の方が圧倒的に優れていて、それがために仕上がりのカラー写真の質も断然違う。(元々はモノクロであるが)近年撮った写真かと見まがうようなものまであって、当時の米国の写真の質の高さに驚く。もちろん現代のカラー化技術の質が高いことは言うまでもない。こういったさまざまな要素のおかげで、今生きる我々は、カラー化写真を通じて、当時の時代を非常に身近に感じることができるというわけである。写真をカラー化することで、あの時代、ひいては戦争をこのように身近に感じることができるようにするというのがこの本のコンセプトだろうが、それは数々の写真を通じて十分実現されていると感じた。

-マンガ-
本の紹介『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻』
-マンガ-
本の紹介『コミック昭和史 第2巻』
-マンガ-
本の紹介『コミック昭和史 第5巻〜第8巻』
-日本史-
本の紹介『日本軍兵士』