老人支配国家 日本の危機

エマニュエル・トッド著
文春新書

相変わらず安直なトッド本
借りて読むのにちょうど良い

 こちらは、2021年に発刊された文春新書。エマニュエル・トッドの著作集・対論集である。例によって、他の場所(多くは『文藝春秋』)で書かれた評論を集めたもので、トッドの鋭い意見が散見されるにもかかわらず、本自体には作り手の哲学がまったく感じられない。それに最後の方に、タレント歴史学者の磯田道史、本郷和人との対談まで収録されていて、いかにもやっつけ仕事という印象は拭えない。

 そもそも文春新書からこういう本が立て続けに出されるのは、トッドの評論やインタビューが『文藝春秋』にたびたび掲載されるためで、日本でトッドの評価が高いこと(あるいは文藝春秋社の中に熱烈なファンがいること)と関係しているんだろうと思われるが、それにしても文春新書のトッドのシリーズはことごとく安直さを感じさせる。

 Ⅰ「老人支配と日本の危機」、Ⅱ「アングロサクソンのダイナミクス」、Ⅲ「「ドイツ帝国」と化したEU」、Ⅳ「「家族」という日本の病」の4部変成になっており、各部のテーマに合わせて数編の評論・対論が集められている。本書のタイトルは「老人支配国家 日本の危機」となっているが、それに該当する部分はⅠとⅣだけであり(しかもⅣは磯田、本郷との対論)内容とそぐわない。このあたりも安直さを感じさせる。

 また、どの稿も他で概ね語られていることばかりで、目新しさもあまりない。今回図書館で借りて読んだが、少々拍子抜けしたという印象である。トッドの語り口は面白く、翻訳もトッドの著作の中では比較的良い方だったが、文春の安直な本作りが鼻につく。借りて読むのにちょうど良い本と言えるかな。

-政治-
本の紹介『帝国以後』
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本の紹介『グローバリズム以後』
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本の紹介『トッド 自身を語る』
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本の紹介『問題は英国ではない、EUなのだ』
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本の紹介『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』
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本の紹介『第三次世界大戦はもう始まっている』