トッド 自身を語る

エマニュエル・トッド著、石崎晴己編・訳
藤原書店

これまでの著書の解説をまとめてみました……という本

 エマニュエル・トッドのインタビュー集。それぞれ、トッドの著書『家族システムの起源』、『不均衡という病』、『最後の転落』、『アラブ革命はなぜ起きたか』、『文明の接近』に関連して行われたインタビューで、すべて元々『環』という雑誌に掲載されたものである。著書のテーマについてトッドが語るという形式で、インタビュアーは編者の石崎晴己とフランドラワというフランス人女性が行っている。この本はインタビュー本なので読みやすいかと思っていたが、読んでみると、他のトッドの著作同様、かなりわかりにくい。石崎晴己が訊ねている質問の部分(おそらく本書では石崎自らが翻訳しているんだろうが)さえもわかりにくい。当事者が自らの言を日本語で書いてそれでも分かりにくいということになると、トッドの著作の読みにくさは、ひとえにこの人のせいだろうと推測できる。もっともトッドの本は、堀茂樹という人が翻訳しているものも多く、こちらはもっと読みづらくわかりにくいんで、石崎訳の方がまだましかも知れない。

 内容は、石崎の解説によると、非常に画期的なものもあるらしいが、概ね今までの考え方をまとめているという範囲であり、特にこの本で目新しいことが紹介されているわけではない。目新しいことと言えば、共産主義(ソ連型の独裁的なものではなく理想主義的な)が、パリ盆地周辺で「保護層」(宗教がなくなった後の精神的支柱で、行動の枠組みをなす価値体系)、つまりカトリシズムの代わりとして機能していたという話や、トッドの生い立ちなどの話ぐらいか。トッドが若い頃共産党員で、それが良い想い出だというのも今回初めて聞いた。また、トッドは震災後東北地方を訪れており、それについてのインタビューもあるため、まったく目新しさがないというわけでもない。とは言っても、ほとんどはこれまでの著書の解説レベルで終始しているのは確かである。トッドのことを知りたいとか理解を深めたいとかいう人向けであり、新しい議論の展開を求めることはできない。

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