トッド人類史入門
西洋の没落
エマニュエル・トッド、片山杜秀、佐藤優著
文春新書
過去の記事を焼き直して水増ししたテキトーな本
エマニュエル・トッドの本が(また)文春新書から出たということなので図書館で借りて読んでみた。だが、これまでの文春新書同様、相変わらずいい加減な作りであり、これまでのトッドのインタビュー記事なんかをまとめたインスタントな構成の本で、大きな失望だけが残った。
全5章構成で、第1章、第4章、第5章がトッド単独のインタビュー記事(初出は第1章が『週刊文春WOMAN』、第5章が『Le Figaro』、第4章が本書のためのインタビュー)、第2章がエマニュエル・トッド、片山杜秀、佐藤優の3人の対談((初出は『文藝春秋』)、第3章が片山杜秀と佐藤優の対談である。
このうちもっとも長いのが第3章で(約80ページある)、片山杜秀と佐藤優が、トッドの著作、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』をテキストとして用い、現代の世界情勢(特にロシア情勢)を分析するというコンセプトの対談で、読書会を髣髴させるような内容の、実につまらない記事である。トッドの著書がバイブルであるかのごとく逐一紹介され、それが現代の政治的な推移にどれほど適合しているかを推していくような内容で、その心酔具合は読んでいるこちらが恥ずかしくなるようなレベルである。第2章の三者の対談についても似たような傾向があって、こちらもあまり目を引くような箇所はない。
第1章、第4章、第5章はトッドのインタビューなんでそれなりに内容もあるが、これまでの著書の焼き直しのような内容であるため、それほど目新しさもない。
ということで、これまでトッドの著作を読んでいる人にとっては、ことさら読む必要もないような本である。文春新書のトッドの「著作」は、過去の(文春関連の)記事を焼き直して水増ししたような適当なものが非常に多い。こういったいい加減な企画は、トッドの価値を傷つける結果にも繋がりかねない。こういう「売れたら勝ち」みたいな商売に走るのはそろそろやめたらどうだと思うが、文春新書編集部にそれだけの矜持を期待するのも無理な話のようである。